[理事長ブログ ― ネコの目]
祈り

熊本の地震から1年が、東北大震災からは6年が、阪神淡路大震災からは20有余年が過ぎました。

震度7という劇烈な揺れが、短時間に二度も襲った「平成28年熊本地震」では、本震にたいする前震などと云う言葉が生まれました。正式には「平成23(2011)年東北地方太平洋沖地震」と命名された、通称東北大震災は、1000年に一度の規模ともされますが、想像を絶する津波災害、そして福島では今も対応に苦慮される放射線災害が起こりました。阪神淡路大震災、正式には「平成7(1995)年兵庫県南部地震」は、先進国の人口過密都市を襲った巨大地震でした。この地震では、とても古いものではありましたが、私自身、生まれ育った郷里宝塚の実家が被災取り壊され、また、多くの知人を亡くしています。特に、生き埋めのまま、長時間の火災による死者の話は胸が痛みました、今もですが。

災害が直接原因の死者の数は、熊本が死者225人、負傷者2,753人、最大避難者数183,882人、行方不明者は0(2017.4.13 消防庁発表)、東北大震災は、死者15,893人、行方不明者2,553人、負傷者6,152人、最大避難者数40万人以上(2017.3.10 警察庁)、阪神淡路大震災は、死者6,434名、行方不明3名、負傷者43,792名、最大避難者数316,678名(2008 消防庁)です。

熊本では、本震から1年の4月16日、朝日新聞によりますと、避難生活中の体調悪化が理由でお亡くなりになった方々、いわゆる災害関連死の認定を、なお、少なくとも195人の方々のご遺族が審査待ちと報じています。その熊本の災害関連死は170名で、既に死者全体の3/4で、この数と比率は、かつての新潟中越地震のそれに迫っているとか。関連死認定は、その後の補償に繋がりますので、審査は、慎重になされねばなりませんが、災害が終わった後の家族の死は、日々の生活の維持、どこから手を付けてよいやらの復興や復旧、見慣れた地域の光景が一転した被災地のなかで、さらに人々を打ちのめます。近年では、災害救援の早い時期から、メンタルな支援も加えられていますが、やっと助かった、少し落ち着いたかと思う中での、親しい人の死が人々に与える打撃は、殊の外、強烈なようです。

 2005年、福岡県西方沖地震で、当時勤務していた看護大学学生が、島ごと避難された玄界島の人々のその後を調べさせて頂いたことがありました。それまで結束固く、協働で漁業に従事しておられたこともあるのでしょう、災害後のご年配者の死は、生き延びられた方々に、災害死とは異なるダメージを与えている様子をうかがいました。また、阪神淡路大震災の被災者の知人は、対話中に突然沈黙が訪れることは、今でもあります。

災害や紛争犠牲者、また避難民支援の現場では、しばしば死者や避難者の数の大きさが援助の規模の決め手になります。かつて、WHO本部緊急人道対策部門に勤務した際、ある紛争国に発生した自然災害支援の規模を議論する会議で、現地からの、遺体を保存する身体バッグとか遺体パウチとよばれる袋を何千も送付されたいとの依頼に対して、支援は生存している被災者、つまり生きている方々にのみすべきだとの意見と死者を弔う文化へも配慮が必要とのスタッフ間の激論の調整にてこずったこともありました。

 災害時、大きな救援が行われるにしても、外部には個々の死は見えにくく、災害=死者の数が独り歩きしかねません。それが災害の大きさとなってしまします。が、現実には、おひとりおひとりの命、個々の生きた証が消えたことによる、別の被災があります。

 不意に失われた命への畏敬と弔いは、年月の経過にかかわりなく、長い間、個々の人々の中で、繰り返し、繰り返し行われているはずです。それは、宗教の有無、宗旨の如何を問わず、また、祈りのありかた、形に何かを求めるかではなく、死者を悼む文化・・・でしょうか、先に述べた玄界島でも、お話しの途中に、ふとした沈黙が訪れることで気づいたことでした。

 最近読んだ東大寺長老森本公誠師によるドキュメンタリー的な「聖武天皇」からの受け売りですが、麗しい文化が栄えた時代のように思える天平時代(8世紀頃)ですが、かの東大寺の大仏様も、薬師寺も、法華寺もすべて、当時頻発した地震と、わが国を初めて襲った天然痘大流行をおさめるための祈りから発しているのです。

 気象庁の地震情報によりますと。先日2017(平成29)年04月18日00時40分と00時38分頃に福島県浜通りでM3.0、震度1が、また一昨日2017(平成29)年04月17日22時35分と22時30分頃に熊本熊本地方でM2.3、震度2と22時25分と22時22分頃には、同じくM2.2 震度1の地震が起こっています。わが国は、災害とともに生きてきたのです。

一周年、六周年・・・の問題ではなく、災害を忘れないこととともに、私どもは、常に祈りを忘れてはいけないと思いました。改めて、災害の犠牲者に祈りをささげたいと思います。

注 『聖武天皇 責めはわれひとりにあり』 森本公誠 講談社
  ISBN-10: 4062161389 ISBN-13: 978-4062161381