[会長ブログ ― ネコの目]
懐かしい、そして大事なスローガン ~Health for all(すべての人に健康を)~

着任日7月1日が週末だったため、10年ぶりに代わったWHO事務局長の最初の施政方針発表が先週月曜日にありました。

“Together for a healthier world(より健康な世界を一緒に作ろう)

と題されたそれは、簡潔ながら、世界の保健を預かる専門機関WHOだけでなく保健医療に携わる私どもが忘れてはならない、しかしWHOや世界中が努力してきたにもかかわらず、なお達成できていない長年の目標が述べられています。

「誰であれ、何処に住んでいようとも、すべての人が健康で生産的な生活を送れる世界を、私は夢見る。(I envision a world in which everyone can live healthy, productive lives, regardless of who they are or where they live.)」と、初めてアフリカ大陸のエチオピア連邦民主共和国(以下エチオピア)から選出されたテドロス・アダノム・ゲブレイェスス(52歳)WHO新事務局長は述べています。

新事務局長の出身国エチオピアは、アフリカ東北部に位置する内陸国、現在は海に面していません。が、テドロス氏のお生まれは、かつてエチオピアの一部だった現エリトリア国のアスマラです。つまりエチオピアは、1991年、その一部がエリトリアとして独立宣言し、1993年に時のエチオピア政府がそれを承認するまでは、アラビア半島との間に位置する紅海に面していました。

海に囲まれたわが国では、第二次世界大戦後の、連合国軍駐留や沖縄返還、また現在も決着がついていない北方四島問題はありますが、主な国土についての国境が変わるとか、国土の一部が分離独立するという事態は経験していません。

第二次世界大戦後から1960年代にかけて、多数の植民地がかつての宗主国支配から独立したアフリカや中東、東南アジアでは、その後、長い紛争状態が続きがちです。それは、明らかに区別できる河川や山脈と云った地勢の境界があればまだしも、多くの新興国の国境は、かつての宗主国の思惑で決められたものが多く、実際に住んでいる人々にとっては血縁も地縁も民族性も無視されたものもありました。さらに、その後、それらの地で自然資源が見つかると、それをめぐる対立とも相まって、ぶすぶすと紛争状態が続き、国境を越えた難民や、国内にはいるものの生まれ故郷を追われた避難民をつくることにつながってきました。

例えば、エチオピアとエリトリア間も、かつて私がWHO本部緊急人道援助部に勤務した1997年頃、E-E(Ethiopia-Erethrea)紛争と通称する対立状況が続き、絶えず、数万以上の人々が流浪の民となって近隣国に流出していました。いわく言い難い、これら複雑な紛争は、つかの間の和平があっても、直ぐにぶり返し、地域社会の連携や文化を崩壊させて行きます。

誰であれ、何処に住んでいても、健康な生活ができる世界、と新事務局長が述べられた言葉は、先進国の理念的なものとは異なる重みがあると思いました。

さらに新事務局長は、5つの優先項目を上げています。その第一は「Health for all(HFA すべての人に健康を)」です。これは新事務局長が、まだ、12,3歳の少年だった頃、1977年にWHOの総会で満場一致で決まった世界初のグローバルスローガンです。そして、その実践の為の戦略プライマリーヘルスケア(PHC Primary Health Care)は、翌78年、かつてのソビエト連邦カザフスタン地方アルマ・アタで156ヵ国組織の合意で決まりました。爾来、40年、PHCはHFAと対になって世界の保健分野の実践の背景であり、また、人口に膾炙してきた理念と申せましょう。

二つ目は「健康の危機(Health emergencies)」への対応、三つ目は「女性、子ども、思春期(Women, children, adolescents)」、四つ目は「気候と環境変化による健康への影響(The health impact of climate and environmental change)」対策。最後は、上記4項目を達成するための「WHO改革(A transformed WHO)」です。簡単に書かれた当たり前すぎること、でも、本当に為すべき事々です。

新事務局長は、また、保健/健康を世界の重要問題のド真ん中に置き、そして人々を第一に考えるともおっしゃっています。目新しい、奇抜なテーマはありません。が、誰もがやってきたことだ、誰でもが考えていることばかりだと冷やかにみたり、切って捨てたりするのではなく、希望の大陸アフリカの、発展目覚ましい新興国出身の、そしてまだ若く新鮮で有能なリーダーの指導力を、私ども笹川記念保健協力財団はどう支えられるのか、どのように協力できるのか考えています。

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