財団では、1996年に日本財団の呼びかけで発足した『ホスピス研究会』(委員長 日野原重明)の提言に基づき、研究助成、人材育成、一般社会に対する周知と啓発を中心としたプログラムを推進してきました。ホスピス緩和ケアとは、がんやエイズ患者だけのためのものではなく、『死を迎えるための施設』を意味するものでもありません。私たちは、ホスピス緩和ケアを「あらゆる病を抱える患者とその家族の、身体的、心理的、社会的、スピリチュアルな苦痛の緩和、改善を目的とする全人的ケア」であり、いつでもどこでも誰にでも、ケアを必要とする全ての方に提供されるべきものだと考えています。
欧米諸国と比べ、わが国のホスピス緩和ケアの歴史は新しく、日本で最初のホスピスが聖隷三方原病院に開設されたのは1981年のことです。その後、1984年に淀川キリスト教病院に、そして1993年には初の独立型ホスピス、ピースハウス病院が誕生しました。1990年、一定の施設・人員配置基準を満たす緩和ケア病棟に対して定額の診療報酬が支払われる「緩和ケア病棟入院料」が厚生省によって導入されました。これにより、緩和ケア病棟を持つ施設、病棟数が増加しましたが、がんなど生命を脅かす疾患に対しては、依然として治療中心で、身体的、心理社会的、スピリチュアルな苦痛の緩和を行うホスピス緩和ケアは長く一般的ではありませんでした。
このような状況の中、2007年に施行されたがん対策基本法では、「全てのがん患者、家族の苦痛の軽減及び療養生活の質の向上」を「早期から適切に行う」ことが重点的課題の一つに掲げられました。これまで軽視されがちであった患者のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質、人生の質)の向上が、国の政策として重視されるに至ったことは、ホスピス緩和ケアの発展における画期的な出来事であったと言えます。
高齢化の進展、がん死亡率の増加などに伴い、近年ホスピス緩和ケアへの関心が高まっていますが、ホスピスや緩和ケア病棟は『死を迎えるための施設』というイメージがいまだに根強いのが現実です。このような状況下、当財団は1999年より2008年までの10年間、ホスピス緩和ケアへの正しい理解を広めるために、一般市民向けのセミナー『memento mori(メメント・モリ:~死を見つめ今を生きる~)』を日本財団、(財)ライフ・プランニング・センターとの三者共催で全国30ヶ所で開催し、これまでに3万人を超える方々にご参加頂きました。また、これまで開催したセミナー等のDVDを制作し、医療・福祉の現場で働く人々の研修の場や学校や家庭での道徳学習などに活用頂けるよう、一般への貸し出しも行っています。
わが国のホスピス緩和ケアの向上を目的として、財団では医療従事者を対象としたホスピス緩和ケアに関する研究助成事業を1998年に開始しました。現在、ホスピス緩和ケアに従事するスタッフの発掘・啓発、ホスピス緩和ケアの利用者のクオリティ・オブ・ライフの向上、在宅ホスピス緩和ケアの向上などを目指す研究や、ホスピス緩和ケアに従事する医療従事者の海外研修などを中心に助成を行っています。
近年、ホスピス緩和ケアに対する社会のニーズの高まりとともに、ケアに従事するスタッフの育成が重要な課題となっていますが、ホスピス緩和ケアに従事する質の高い医療者の数は不足しています。ホスピス緩和ケアには医学的な知識だけでなく、心理社会的な問題への理解力、コミュニケーション能力、チームワークなどが求められます。この要請に応えるために当財団では、ホスピス緩和ケアに従事する医師や看護師等のケアの質の向上をめざす養成研修を行ってきました。2010年度末までに養成した医師は54名、看護師は1,205名になります。また、研修修了者のフォローアップとして、『ホスピスドクター研修ネットワーク』(ホスピス緩和ケアドクター養成研究修了者が対象)と、『日本財団ホスピスナースネットワーク』(ホスピス緩和ケアナース養成研究修了者及び日本財団が多数の機関と協力し実施している認定看護師教育課程(緩和ケア・訪問看護)の修了者が対象)を発足させ、年1回、研修会を開催し、会員間の情報交換・相互支援の場として有効活用頂いています。また、後者の会員に対し、年1回ニュースレターを作成し情報の発信を行っているほか、短期海外研修の助成など、さらなるネットワークの充実をめざし取り組んでいます。
2005年に設置された「君和田桂子基金」は、念願の看護師勤務を目前に不慮の交通事故で亡くなられた君和田さんのご遺族の想いを引き継ぎ、ホスピス緩和ケアの分野において看護師主体で先駆的な取り組み行う団体への支援を行っています。本基金は、「日本財団【夢の貯金箱】」を通して君和田さんのご遺族からの寄付をもとに設置し、当財団が支援先の選考を行っています。
1982年、世界で初めて、子どものホスピス「ヘレン・ダグラスハウス」が英国に設立されました。子どものホスピスは、その後カナダ、ドイツ、オーストラリア、アメリカで広がりを見せましたが、日本ではその重要性が一部の医療者にしか理解されていませんでした。そこで当財団は2008年2月に「小児(ホスピス)緩和ケアに関する研究会」を開催、海外での取り組みについての紹介や、日本における子どものホスピス緩和ケアの在り方についての議論を開始しました。同年4月には、全国の小児科医を中心に「小児在宅医療・緩和ケア研究会」が発足、日本における子どものホスピス緩和ケアのモデル作りに向けての取り組みが本格化しました。2010年現在、レスパイト機能(介護者である家族のための宿泊サービス)を持った子どものホスピス設立に向けて日本各地で様々な取り組みがみられるようになり、今後の展開が期待されています。
特定な病を持つ人だけではなく、あらゆる病と向き合う人々が、ホスピス緩和ケアを通して、クオリティ・オブ・ライフを向上し、より良く生きることが出来る世界の実現をめざして、今後も様々な支援活動をして行きます。
| 研究助成 | ホスピス緩和ケアにおけるQOLの向上に関する研究助成 在宅ホスピス緩和ケア研究助成 ホスピス緩和ケアスタッフに対する海外研修助成 ホスピス緩和ケアスタッフの発掘・啓発研究助成事業 ホスピス緩和ケアドクター養成研究助成 ホスピス緩和ケアナース養成研究助成 |
| フォローアップ | ホスピスドクター研修ネットワーク 日本財団ホスピスナースネットワーク |
| 発掘・啓発 | メメント・モリセミナー「memento mori~死を見つめ今を生きる~」 memento mori「いのちの授業」ワークショップ 小児(ホスピス)緩和ケアに関する研究会 ホスピス緩和ケアに関するDr.ブラムレイ講演会 memento mori「いのちを考えるセミナー」 財団製作DVD一般貸出 |