[会長ブログ ― ネコの目]
院内感染と在宅ケア

保健医療系大学の大概が購読契約しておられるはずの医学情報にコクラン・ライブラリーThe Cochrane Libraryがあります。 
本体は、世界各国の学者のボランティアと聞いていますが、Evidence-based Medicine(EBM)の元祖的存在であるコクラン共同計画The Cochrane Collaborationです。ここからは、他にも手法検証のMethodology Reviewsや実験報告検証かつ論文評価のDatabase of Systematic Reviewsなどもあります。ちょっと馴染みにくいですが、研究を目指す場合には必須の資料、日本語版もあります。私は、あまり活用することもなくなったのですが、今も無料情報を斜め読みすることがあります。
その最新号に、通常の抗生物質に抵抗性をもつ、つまり通常は効果を示すはずの抗生物質が効かない厄介な細菌であるMRSA(エム・アール・エス・エー 本名はメチシリンという抗生物質に耐性をもったブドウ球菌/methicillin-resistant Staphylococcus aureus)の外科手術後合併症としての感染頻度を調べた文献レビューが出ていました。20数年前、臨床を離れた私は、このやっかいな細菌の感染症の治療に悪戦苦闘した経験はありませんが、多くの施設では、医療スタッフがくどいほど感染予防策を講じ、病院検査室が病棟内の細菌の散らばり状況をしつっこくモニターしてベストとおもわれる対策を講じても、この菌は、手術後や重症者の院内感染の原因になっています。昨今、小児科・産科以外は高齢者ばかりの医療施設では、抵抗力の弱い固体が好きなこの細菌がはびこりやすいリスクを高めているとも申せます。
コクラン情報は、手術後MRSA感染は総じて高くはないが、ある種の外科手術では33%にも上るとのこと、また、例えば手術部位での感染頻度が1~33%にもばらついていることを指摘し、残念ながら、手術後のMRSA感染を予防しうる適正な抗生物質使用法はない・・・・としています。
この報告に目がとまったのは、先週の日本財団と弊財団によるホスピスナース研修で、ご講演頂いた宮崎県の「かあさんの家」市原理事長から印象的なお話をうかがっていたからです。市原理事長は、かつて、やむを得ずMRSA陽性の方を引き受けた頃、色々、本当に色々心配したが、やむを得ないなかで、日光浴をしてもらったり布団を干したり、何とか経口摂食を行っているうちに、その厄介な菌が消えてしまったという経験をもっていると仰せでした。
何故、菌が消えるのか・・・それは判りませんとは仰せでしたが、JAMAという有名な医学週刊誌の9月16日号には、同じくMRSAの記事があって、そのタイトルは、“MRSA Where is it coming from and where is it going?(どこから来て、どこへ行くのか?)”
てす。 この記事では、地域の中にもこの感染症が広がっていることが指摘されています。
ご注意頂きたいのは、「病院は悪い、在宅は良い」とか、その逆と云うような単純な話でないことです。
私たちの健康を維持向上させる場合、それがバッサリ破綻した場合、それぞれ対応が異なります。急激なだけでなく、激しく健康が障害された場合、可能なら、医療施設です。が、しかし、それでも、それぞれの場合に活用すべき、適正な施設と適正な使い方があるはずです。権利の主張だけでは、一時的には何とかなっても、長い期間、多くの人々の健康を護ることは難しい時代になっています。
そして、すべての高齢者は病人ではありませんが、少なくとも、壮健であった時代に比べて、健康の質が劣化していることを自覚したいと思います。 病院は、病気を治すところではありますが、劣化した健康のすべてが昔のようにピカピカに戻ることを期待し過ぎてはなりません。一方、手間はかかりますが、高度な医療技術を要しない程度のケアでも、病院治療後の療養者や、高齢者そして何らかの障害を持った人々を、それぞれの生活の場で看護ることを目指している在宅ケアのよさと重要性が明らかになってきています。少なくとも、個々人の家での療養なら、院内集団感染とは無縁のはずです。
コクランを読みながら、チョッと夢が膨らんだのは、私ども笹川財団が日本財団のご協力を得て、この方面の活動支援を深めたいと思っているからですが、詳細はいずれ、乞ご期待!!! です。