[会長ブログ ― ネコの目]
花ミズキ

通勤の電車の窓の外に、白いハナミズキが並んで見えました。
ハナミズキは、ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属・・・と云って何のこと? ですね。ミズキ属の樹木は相当種類がある中、花が目立つので、わざわざ「ハナ」ミズキなのだそうです。この季節、あちこちの街路、時には一戸建ちのお宅のお庭にも白あるいは少し薄いピンクの花をつけています。というのは、正確ではなく、花のようにみえているのは、総苞(ソウホウ)だそうで、本当の花序は、その花びらようの構造の真ん中にあるチッチャナ塊だそうですが、でも、「花」に見えます、何と云われても。その「ハナミズキ」、4、5月頃、東京などでは、桜の後ですが、少し北では、桜と並行し咲いているようです。春から初夏のさわやかな感じの樹木ですが、秋の紅葉もきれいですね。
その昔、アメリカのノースカロライナ州の小さな大学街チャペルヒルに住んだことがありました。季節の移ろいを感じさせる最初は、早春、学生たちの一斉のTシャツ姿でした。5月頃には、男子学生が上半身裸で、大邸宅の芝刈りバイトに精を出す姿も見られましたが、その頃、各所にハナミズキの「花」が広がりました。あちらでは、ドッグウッドとよばれていましたが。
そもそも、北アメリカ原産のこの木が日本に広がったのは、桜との交換だったそうです。
ワシントンDCのポトマック河畔の桜は約100年前、日本から贈られたことをご存じの方も多いと思いますが、ハナミズキはそのお礼に日本に贈られたそうです。
さて、チャペルヒルのある満月の夜の事。
当時、60代後半の英文学者・・アメリカなので、国文学でしょうか、ともかく若い頃には、シェークスピアを講義し、ジェームズ・ジョイス研究でPhDを取ったという60代後半の女性文学研究者宅に下宿していました。庭には一本のドッグウッドがあり、白い総苞に降り注ぐ月光は神秘的でした。で、近くのアパートの庭のハナミズキ群の写真を撮りに行こうと思いました。
アメリカ人の家主は、当たり前ですが、店子の私の行動を干渉しません。が、契約の際に、みそ汁の臭いが苦手なので作らないでほしい(料理下手の私は作れなかったのですが・・)こと、夜の外出は、何処に行くかは別として、何時頃に帰ると申告して欲しい、心配だから、と要請されました。今時、日本でも珍しい話かもしれませんが、異国の独り住まいの身にとっては、とても有難く思い、そのルールに従って、車で10分位の何とかアパートの庭の、月光に輝くドッグウッドの白い花の写真を取りに行く、30分で帰る、と申告しました。
ジェームズ・ジョイスは、英文学の中でも特に難かしいそうですが、当時の私には、難解を通り越したシェークスピアやジョイスのフレーズを浴びせ、しばしば大きなOxford英語辞典をひきなさいと仰せだった、この文学研究者家主の反応に、私は、一瞬絶句しました。
「この木は日本にないの?日本でも、満月はあるでしょう?月の光の下の花なんぞ、何処で撮っても一緒じゃなぁい?」 確かに!!そうですね。でも、「あなた!それでも文学者!!」と、云いたかったところでした。
しかし、彼女は上着を羽織って、ついてきて下さったのです。そして、
「同じ花でも、昼と夜は、違うわねぇ」などとのたまったのです。
文学者はロマンチストと思いこんでいた若き日の私、アメリカまできて、花の写真?あなたは医学の勉強にきたのではないのと云いたかったらしい家主。
しかし厳しくも親切な家主から、テーブルマナー、英語の微妙なニュアンス、そして科学的な英語の使い方を沢山教わりました。毎年、今頃、ハナミズキで思い出す懐かしい家主です。