[会長ブログ ― ネコの目]
宮廷のお庭をめぐる素敵な2冊

高校時代、一番熱中したのは世界史、進学も医学部か史学部か迷った時期がありましたが、「医者には免許がいる、先にそれを取るべし、歴史は後でゆっくり勉強できる・・・」と、きわめて現実的アドバイスをくれた親友の一言で医学部を目指しました。で、時折、歴史本に食指が動きます。過日、フラフラと立ち寄った書店で、「庭師が語るヴェルサイユ」1)を手に取ったのは、帯に書かれている「裏」ヴェルサイユという、曰くありげな言葉でした。
自由、平等、博愛の旗の下、起こるべくして起こったフランス革命は1789年(火縄くすぶるバスチィーユと覚えました)。ブルボン朝最盛期の太陽王ルイ14世の妃はスペイン国王の娘、政治には不熱心だったルイ15世の妃はポーランドから、そして革命時の皇帝ルイ16世の妃は、ハプスブルグ君主国領袖にしてオーストリア、ハンガリー王国をも統治したマリア・テレジアの娘マリー・アントワネット。ヨーロッパを巻きこんだ、中世から近世へ一大ドラマの場がヴェルサイユとも申せます。後の国際保健稼業時代に学んだのは、ルイ15世は天然痘で亡くなり、フランス革命の遠因には、アイスランドの火山爆発噴煙による全ヨーロッパの日照時間短縮と農作物収穫量減少そして飢餓とともに、少し前に勃発したアメリカ独立戦争支援で、財政難に陥ったブルボン王朝の崩壊つまりフランス革命が早まったことなど、18世紀ヨーロッパには現在の国際開発に共通する事項があったことです。
著者は、この歴史的宮廷の「庭師」です。お若い頃、あまり将来を嘱望されてはいなかったと告白されていますが、偶然がこの方をして天職に導いたのでしょうか、この庭を構成するすべてに愛情たっぷりで、歴史的エピソードも豊富なのですが、何だか、庭の木々や草を引き立てるための記載みたいで可笑しく読めました。一二度、日本人観光客も出てきますが、その一人として、ヴェルサイユに2度参りました。ガイド書による有名スポットのつまみ食いだったので、壮大な庭は記憶していますが、木々や草花、彫刻などに意識は及びませんでした。
もう一冊、積読していた宮廷のお庭本を続けて読みました。「御所のお庭」2)です。
これは、平成22年、天皇陛下の喜寿をお祝いしての特別写真集です。何が特別かですね。皇居関連写真集は相当刊行されているそうですが、皆、一般公開されているお庭、例えば、本日の宮内庁HPの参観案内を見ますと、お知らせ「宜仁親王殿下6月8日薨去につき,皇居一般参観は平成26年6月9日(月)~同年6月17日(火)まで休止」がございますが、毎日、インターネットでも申し込み可能、カメラ、カメラ付き携帯を持参すれば、写真を撮ることが許されるお庭の写真に対し、本書は「御所」つまり両陛下のお住まいのお庭です。
ヴェルサイユは、王や王妃の恣意的想いによる豪華絢爛な人工建造物に附属の庭園、それを現在の匠である著者が、元来の自然をも考量して、あるべき姿に保っておられるように思えるのに対し、御所のお庭は自然そのもののようです。
毎年今頃、天皇陛下が田植えを、皇后陛下が養蚕作業をなされる報道がありますが、両陛下や皇室が伝承されなかったら消滅した日本の伝統文化が沢山あると、私は思っています。
ご本には、お庭や植物に関連する御製、御歌に加えて、天皇が撮影された素敵なお庭の素敵な皇后のお姿があります。皇后様と花では、阪神淡路や東北の大震災時の水仙のエピソードが思い出されますが、御所のお庭には、天皇陛下が自ら挿し木や取り木をなさって増やされた木々があり、その中には元々あった地に戻されたものもあるなど、両陛下の自然に対する御心が読み取れました。
高いビルの合間の黒々と茂る御所の森の一草一木は、毎日、両陛下のお慈しみをうけて育っているのですね。路傍の紫陽花がチョット美しく見えるような気持ちになりました。
プレゼンテーション1 (1).jpg
1) 庭師が語るヴェルサイユ 原書房 2014
2) 御所のお庭 扶桑社 2010