[会長ブログ ― ネコの目]
ブラジルの夜明け

昔、小児科医の頃、狭い病室とせいぜい廊下数十メートルが日々の行動範囲にあった入院中のこどもたちと遊ぶことも、思えば大事な仕事だったような気がします。その中に、なぞなぞがありました。

「センセ!!」と朝の回診を終えた私に、白血病治療中のユウコちゃんが問いかけました。
「朝日と夕陽は、どちらが重いか知ってる?」

只今、前回ブログに記載したブラジル公衆衛生学会参加後、現地入りされたWHOハンセン病制圧大使である日本財団笹川陽平会長ご一行と、首都ブラジリアでの会議他を終え、中西部のマトグロッソという州に参りました。

ブラジルは、日本とまるっきり地球の反対側(裏側ではありません。こちらからみれば日本が裏側ですが)にある、南米最大の広さ(日本の23倍)の連邦共和国です。アメリカ同様国内に異なる時間帯があるという国土に人口は2億人弱、日本の倍近いとは云え、人口密度はわずか22人/Km2(日本343人/Km2 、日本の最疎人口密度の北海道は73人/Km2)です。サンパウロやリオデジャネイロといった大都市の人口がそれなりに多いことから、地方では、ほとんど人気<ヒトケ>がない、こちらではファゼンダとよばれる壮大な農園の中に、ポツンと家がある、超過疎状態も稀ではありません。訪問中のマトグロッソ州は、日本の3倍近い広さに人口はたったの280万、人口密度は3.2人/Km2、州都クイアバのそれが152人/Km2ですから、その他の地域はおして知るべしです。

ホテルの8階から見る夜明けは、暗黒の中に街灯が光る街並が時々刻々と色を替えてゆきます。アフリカの草原とは異なる、また、壮大な朝焼け、やがてビルの向こうに太陽が見えると、一瞬、厳しい熱気が放たれます。

何かの作業場でしょうか、ホテルの窓からは波板スレートやトタン屋根の大きな建物が見えます。激しい朝焼けの中で、それらを見ていて思いだす映画というより、映画の中の曲がありました。後に、森繁久弥の名演でも知られる「屋根の上のバイオリン弾き」の中の、結婚式のシーンに流れる「Sunrise, Sunset」という、美しい曲です。この映画は、最初はミュージカルだったそうですが、そもそもは「牛乳屋テヴィエ」という、19世紀末頃の帝政ロシア時代の、確かウクライナ地方のユダヤ人一家の物語。
20世紀は、二つの世界大戦とともに、避難民が大きな問題となった時代でもありました。映画の背景はユダヤ人排斥であり、移民でもありました。

ブラジルの独立は1822年と古いのですが、長らく宗主国ポルトガルの支配を受けた植民地でもあり、ポルトガル語を国語とする数少ない国です。また、ブラジル人と一口で申しても、本来の住民(グアラニー人ら)の他、ポルトガル系、また植民地時代のアフリカからの奴隷の子孫、さらに金発見などの機会に流入したドイツ、ポーランドなどヨーロッパや中東からの人々、また、わが国からの移民など、世界各地からの人種が入り混じっています。このような人々の中には「屋根の上のバイオリン弾き」のようなユダヤ系の人々も混じっていたのでしょう。

さて、ユウコちゃんから訊かれたなぞなぞは、こちらのSunriseを見ていると、改めて納得します。

「夕日は沈むから重いの、朝日は昇るから軽いの」と。

15-08-12 クイアバ2 15-08-12 クイアバ