[会長ブログ ― ネコの目]
フレイルという状態

フレイル(frail)と云う言葉があります。
そもそもは「もろさ」とか「はかなさ」を意味する“frailty<フレイルティ>”という英語には、高齢者にありがちな状態を示す「虚弱」という訳があてられていました。が、高齢者ブーム?の昨今、同じ単語に老衰、衰弱、脆弱(ゼイジャク)といった訳語も現れ、いずれにせよ、「老い衰えて元には戻らない不可逆的状態」と想定されていました。ところが“frailty”という状態は、劣化一方でなく、完全にピチピチの若者に戻ることはあり得ないにしても、適切な訓練や介助支援で、再びかなり自立可能な状態に復帰しうる、つまり可逆性のある状態なのだと判ってきました。

日本老年医学会がワーキンググループを作られ、適切な訳語募集をなさったりした結果、“frailty”の日本語訳はカタカナで「フレイル」とするとされました。つまり、高齢者のすべてが、皆一様に虚弱でドンドン衰えてゆくのではなく、一見「フレイル」にみえても、適切な訓練や介助を得て、今一度自立できることはある、はずだというのです。

先般、暑い最中でしたが、興味深いと申すより、身につまされる論文「救急部受診高齢者の単純動作テストと自己申告による行動評価 (Self-Reported Versus Performance-Based Assessments of a Simple Mobility Task Among Older Adults in the Emergency Department. Roedersheimer KM, et al. Ann Emerg Med. 2015 Jul 25)」の要約に目が留まりました。アメリカの話ですが、高齢者は自分の身体機能を過大評価しているというものです。
とても簡単な方法ながら、実に情報量が多い論文です。救急部受診した、認知機能に衰えなく、施設入所中や重病でない、65歳以上の高齢者で、試みに同意を得た272人を対象にしています。
ベッドから出て10フィート/約3メートル歩き、そこで方向転換してベッドに戻る、だけです。まず、補助なしにやるが、出来なければ、杖、歩行器などの補助具を提供します。結果です。約1/4の高齢者は、自分で出来るかどうかが判っていいない、「(助けなく)自分で出来る」と回答した人の12%は実際には何らかの助けが必要か、あるいはそうする意思がなかった(指示を実施したくない・・・できない?)。杖、歩行器など補助具なしで出来ると回答した人の、実に約半数(48%)が実際は何かの補助を要したか、または指示をまっとうすることが出来なかった・・・・ さらに、補助あれば出来ると回答した人の約1/4(24%)は介助してもできなかった、のです。
この観察から、著者らは、高齢者は(退院後、住み慣れた)自宅であっても、転倒の危険性はあり、自宅でも安全に動けるとの確認が大事なことと、高齢者の行動能力は、しばしば自己申告で判断されるが、高齢者自身が自らの能力をきちんと把握していない、特に補助を必要としている人々では、歩行などの基礎行動を直接観察した方が良い、としています。

私どもが昨年始めた「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業の一期研修修了者は、10月4日、日本財団創設者笹川良一翁ご生誕の地、箕面市での開業で10ヵ所(実際には既開業の一名を加え11ヵ所)になりました。

当面、クライアント/顧客の多くはご高齢者でありましょう。なら、当然、自宅ケアを担われるご家族もご高齢であろうかと思います。つまり、在宅看護では、ケアの直接対象者だけでなく、ご家族の行動にも気配り目配りが必要だろうと、この論文から思います。そして、看護師の主務の一つはADL(Activity of Daily Life 日常生活動作)評価であります。それは単に評価することが目的ではありません。日常動作を評価し、能力低下を防ぎ維持するではなく、それを向上させさせるための指導をも担えるのが在宅看護師であると信じています。

ただし、専門的知識、技術の行使がボランティアベースでは継続できず機能拡張も期待できません。予防という介入にしかるべき評価と報酬がついてこそ、地域の健康を護り、人々の安全と安心を保証できる体制が確立すると考えています。10名の仲間がやがて20,30に増え、各地で、政策策定に資する、しかるべきエビデンスを蓄積する、その日が目の前に来ているような気がします。

笹川記念保健協力財団では、「看護師が社会を変える」「社会を変えられる看護師」を目指して、看護職の支援を強化しています。
12月には「認知症を考える」講演会を、2016年1月には、ICN(世界看護師協会)会長、日本看護協会長らによる講演会を開催します。多数のご来駕をお待ちしています。