[会長ブログ ― ネコの目]
「患者」という言葉

がん患者10年後の相対生存率を初公表というニュースがありました。国立がん研究センターの研究班は、2002(平成14)年までの4年間にがんと診断された全国の「患者」35,000人のデータを基に、28種類のがんについて、診断から10年後の相対生存率をまとめ、がん「患者」全体の10年生存率は58.2%とする調査結果を公表したというものです。

国立感染症研究所のインフルエンザ流行レベルマップ 第2週(1/22更新)では、厚生労働省・感染症サーベランス事業により、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関を受診した「患者」数が週ごとに把握されています。 過去の「患者」発生状況をもとに設けられた基準値から、保健所ごとにその基準値を超えた場合に、注意報レベルや警報レベルを超えたことをお知らせする仕組みになっています、とあります。

同研究所の感染症週報の、2015年第44週号では、注目すべき感染症として梅毒が取り上げられています。<梅毒 2015年10月までの報告数増加と疫学的特徴> 2015年第1週から第43週までに報告された「症例」数は2,037例で、昨年同時期の1.5倍であったとあります。

毎日新聞の医療プレミアムには、読者投稿 「患者」の気持ちがあります。投書は、比較的ご高齢の方が多いようですが、何らかの病気や障害とともに毎日を暮らしておられるように拝読できます。必ずしも、入院し治療を受けておられるのではありません。

最近、増えているというより、その病態がよくわかるようになってきたために私どもの目に付きやすくなったような気もする認知症ですが、「認知症の『人』の家族の多くが悩む、徘徊や暴力などの症状。島根県出雲市のデイケア施設『小山のおうち』では、利用者のほとんどにそうした症状の改善が見られ、家族とともに穏やかな日々を取り戻しているという。」(http://www.nhk.or.jp/heart-net/tv/calendar/2016-01/14.html)という風に、患者という言葉が使われていません。恐らく、何らかの薬剤投与を受けておられても、まわりの人々が、いわゆる「患者」としてみておられない・・・つまり普通の中での仲間として付きあっておられるのでしょう。

広辞苑の患者の説明は、「病気にかかったり、けがをしたりして、医師の治療を受ける人」、広辞林には、「《医師の側からいう語》病気にかかっている人。病人」とあります。医学生が良く使う、英語医学辞書であるSTEDSMAN’s Medical Dictionary(医学辞書)には、「何らかの病気または行動異常に罹っていて、そのための治療を受けているもの」とあります。

つい手軽に活用するインターネット辞書Wikipediaには、「患者とは、なんらかの健康上の問題で、医師ないし歯科医師や保健医療専門家の診断や治療、助言を受け、(広義な意での)医療サービスの対価を払う立場にある人、医者の側から見た語」、続いて、「カウンセリングや心理療法では、来談者という言い方で、英語はクライアント(client、顧客) を使う。医療機関未受診の「患者」は傷病者とも表現する。」とあります。

これらをまとめると、患者とは、何らかの病気/けがをもっているか、あるいは何らかの健康上の問題で、医師など保健専門家の治療、助言をふくむ医療サービスをうけている人、ただし、感染症では、「症例(数)」といった言葉も使われるということでしょうか。

しかし、健康と病気の間は白黒明確でないことが多く、実際、健康人と患者しかいないのではありませんし、不健康と判っていても治療を受けない、受けられない人、逆に、きちんと診断され治療も決まっているのにそれを避けている人や(ある意味、メンタルな病気ともいえるかもしれませんが)治療不要だけど、病気に逃げ込みたい人などなど。

本当は、何気なく使っている「患者」という言葉ですが、ちょっと乱用しすぎているような、また、無神経すぎる気もします。が、あまり気に留めなくてもよいのかもしれません。

42年前、世界のハンセン病制圧のために、設立された私ども、笹川記念保健協力財団のHPの「ハンセン病とはの「ハンセン病状況」では、年間新規診断「患者」数という言葉を使っています。そして、かつて感染発病し、後遺症の有無にかかわらず、病気が進行することはなく、もちろん他人に感染させる状態にない方々を「回復者」としています。

この言葉は、世界のハンセン関係者では一般的に使われています。私たちは、無病息災を願ってはいますが、一生何事もなく、ピンピンコロリと生を全うできる人は、ほとんどいないではないでしょうか?私たちは、何らかの患者の経験を持ち、回復者として生きているのではないでしょうか。