[会長ブログ ― ネコの目]
フランス系モロッコ生まれの青年

昨年1月のパリ、風刺系新聞「シャルリ・エブド」社の襲撃、同年11月のパリ多発テロ。「イスラム国」との関連やその自称「国家」自体の犯行宣言。声高に再び叫ばれた「テロとの闘い。」

ベルギーの首都ブリュッセルで、国際手配下の容疑者が逮捕された2016年3月18日。四日後、ブリュッセルでは日本人も巻き込まれた新たな連続テロが発生しました。EU(ヨーロッパ連合)加盟国が「テロとの戦いで団結する」と共同声明を出し、国連も非難声明を出しています。

古典的な国家間戦争とも、「マフィア」や「ヤクザ」のからむ犯罪とも様相が異なり、直接の敵対者ではなく、関係のない不特定多数の市民に対する武力襲撃、テロがヨーロッパで多発しています。過去二十数年間、主に途上国で頻発した「人道の危機(Humanitarian Emergency 実態は地域武力紛争)とも異なる、いわば都市型人道の危機でしょうか。

「犯人」・・・事件の関係者は、マグレブ諸国(アルジェリア、チュニジア、リビア、モロッコ)とよばれるアフリカ大陸北部の、かつてのフランス植民地あたりにルーツを持つ、フランスやヨーロッパ諸国への移民の二、三世で、越えがたい従来の居住者との格差が不満の根源ともされます。

そんなルーツの一人の若者を思い出します。
アフガン難民支援に従事していた約30年昔です。ユニセフ事務所に、映画でも見ないようなハンサム青年が、今風に申せば、タンクトップにショートパンツ、ゴム草履で現れました。申請していた難民キャンプでの教育プロジェクト資金を「早く頂戴!」と。いささかムッとしたというより呆気にとられた私は、まだ、中年でしたが、イジワル婆さんをしました。

「あなたの文化と違うかもしれないけど、私の文化では、しかるべき金額の資金を受け取るには、その姿は適切でないと思うノ!」

ウインクして、彼は消えました。カラシニコフライフルは蔓延し、しばしば事件が起こる状況もあったので、ちょっと動悸し、その夜はよく眠れなかったことも事実です。

翌朝、出勤すると、濃いこげ茶のボウタイに、麻のスーツ姿の彼が事務所の入り口でガードマンとふざけていました。「これで良い?」とスーツを広げてくれました。

「モハマド」と、イスラム預言者に因むお名前。ご両親の一方は純粋のフランス人で、他方はアルジェリア系、自分はモロッコ生まれだか、フランス国籍だと自己紹介してくれました。私の先祖は、何代も日本人だと云うと、「スゲェェ!!」とびっくりしてくれました。高校卒業後、数年間、アフリカ各地で活動するNGOで働いていたが、国連のアフガン復興計画(旧ソ連軍撤退後に打ち出した援助計画)を知って、その拠点のペシャワールに来た、と説明してくれました。

それから、ちょくちょく事務所に顔を見せてくれました。ある時です。
「“Goh(ゴゥ)”を知ってる?あれが欲しんだけど・・・・」
「”Goh”???」
「日本なら手に入ると思うけど・・・欲しいんだ、あればすごい!」
“Goh”とは何なのと尋ねると、紙の上に碁盤の目を描きました。白と黒のishi(イシなのですが、フランス語なので、アシに聞こえるのですが)を置くのだと、丁寧に説明してくれました。

たまたま、現地訪問予定のあった関係者にファックスを送って(今のようにメイルがあるわけではなく、国際電話も途切れ途切れ、唯一確かな伝達はテレックスと、頼りないけどファックスでした)、折り畳みの碁盤と、磁石付の碁石セットを持参して頂きました。

代金を支払うと迫る彼。あなたが日本文化を知ってくれているので、私はとても嬉しい。だから、プレゼントしたいと押し付けました。力いっぱい何度もハグして、両頬へのキスの嵐・・・ハンサムと年上のオンナ!!思い出すだに、素敵なシーンだったはずデス。

移民を受入れて、やがて、二世三世は受け入れ国の国籍を持つ。けれども、完全同化は難しい。あるいは同化しない、させない・・のでしょうか。資本主義、市場主義が行き詰まっているとか、民主主義がうまく機能しなくなったとされます。そんな中で、民族や宗教に拠り所を求める・・・求めたくなる人々、学習しても獲得した知識を適切に活用できない社会・・・若者の不満のはけ口が、関係のない他者を殺めることだとしたら、近代社会は何をもたらしたのでしょうか。
それとも、30年前のあの頃、まだ、誰にも夢や希望があっただけなのでしょうか?

モハマドは、今、何をしているでしょうか?
テロを防ぐには、私は、何をすれば良いのでしょうか?