[会長ブログ ― ネコの目]
オバマケア アメリカ

7月11日付けの電子ジャーナル版JAMA(米医師会発行の、世界で最もよく読まれている査読付きの権威ある週刊医学誌)に特別記事として、オバマ大統領の「アメリカのヘルスケア改革 現在までの進歩と次段階」が掲載されています。

任期が半年となったオバマ大統領ですが、8年前、大統領選に打って出られた際の“Change!(変化)”は、どの分野でも劇的とは云えないながら、どのスピーチにもその想いがこもっていると、私は思っています。(注参照)

さて、通称オバマケアとよばれてきたアメリカの新しい包括的医療保険制度改革は、多分、大統領が期待されたほどうまくは行ってないようだというのが世間一般の見方です。強者と弱者の対立があまりにも明確な彼の国では、基本的人権である健康とそれを維持保証するための保険サービスに大きな問題がある、膨大な格差があり、その是正は誰もが必要と思いながら、達成できていません。次期大統領に近づいているヒラリー・クリントン氏も、かつてファーストレディとしても保険制度改革を訴えましたが、失敗しています。

アメリカは、何でも自己責任、自立し自分で決められるといえば聞こえは良いものの、銃規制も、保険制度も、日本だったら、当然、政府、公<オオヤケ>の責任となり、しばしば私たちは文句をつけるに終始することも、彼の国では自己責任であることが多いのです。すべての人が等しく力を持てればよいのですが、何もかも個人の責任というやり方は、自由の反面、富めるものとそうでないもの、力のあるものとないものが明確になるにつれ、落ちこぼれが出てきます。以前、アメリカでは、健康保険に入れない国民が30%以上(人口3億とすれば9千万人!)とされていました。

立候補時にも、保険制度適正化を公約にかかげたオバマ大統領でしたが、この法案が上下両院を通過したのは2010年3月、実施は2014年1月ですから、ずいぶんと時間がかかりました。

正式には患者保護ならびに医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act)通称オバマケアは、日本の国民皆保険とは全く違って、アメリカ国民に保険加入を義務付け(わが国では、生まれる前からの母子手帳を含め、死ぬまで何らかの保険でカバーされている)、保険料が払えない低所得者には、補助金を提供することで、国全体の保険カバー率を94%にしようというものでした。皆保険ではまったくありません。

自由の国アメリカは、当然、自由診療であり、高齢者用のメディケア、低所得者用のメディケイドとよばれる公的補助に入れる人を除き、国民各人は沢山ある民間保険会社のどれかと、個々に契約します。極端な場合、お金がない、あるいは自分の意志で保険に入らないならば何の保証もありません。昨今、高齢者や低所得者あるいは失業者に加え、あまりにも高騰する医療費のために、それほど貧しくなくとも、長期間持続的に医療費を要する慢性疾患を持つ人々が適正な医療を受けられない事態が起こっているとも伝わっています。

オバマケアは、わが国の公的保険のレベルを目指したものではなく、今迄、個々人が購入する民間健康保険に対しては、保険会社が購入しやすい低価格保険を提供することや、既往症や健康に良くない習慣によって保険購入を差別しないこと(今までは差別されていた)を義務付けると同時に、個々の国民には、これまでは自由だからと保険購入しなかった人には、今後、確定申告時に追加税を科す制度を導入し、全体として、市場の保険を多くの国民が購入できる、しなければならないようにしたに過ぎないのです。国民皆保険制度が65年も前に確立している日本人には、今頃、そんな状態なの?と云いたくなるレベルなのですが、それが、彼の国では、大統領が声をからし、議会を挙げて賛成反対を論じてきた「改革」なのでした。しかも、お金持ちで、既に、きちんと高額でも、市販の保険に入っている人々には、ほとんど何の変化はない、という次第です。
JAMAの特集では、大統領は、1965年にメディケイド(貧困者保険)、メディケア(高齢者保険)が制定されて以来の画期的変化がオバマケアであり、これによって保険に入っていなかった(市販保険を買っていなかった)人は43%減少し、2010年には人口の16%もいたが、2015年には9.1%に減少し、また成人で保険には入っていなかった人の割合も5.5ポイントも減った・・・などと成果を上げておられます。けど、アメリカでは、まだ、9%…10人に1人は保険なし・・・なのです。
オバマケアは、人々が、適正な価格(affordability)の利用しやすく(accessibility)かつ質(quality)の良い保健医療(health care)の構築です。わが国でも、国民皆保険制度は、それを維持するための資金拠出を担う勤労世代が減少する一方、サービスを使いたい高齢世代の増加が、抜本的な改革を必要としています。タダ(無料)より高いものはない・・を肝に銘じて、既存の制度の濫用を慎みたいと思いながら、大統領の投稿とそれに続く数枚のオバマケア関連論文を拝読しました。

注 2017.5.27サミット後の広島。「71年前の明るく晴れ渡った朝、空から死神が舞い降り、世界は一変しました。閃光と炎の壁がこの街を破壊し、人類が自らを破滅に導く手段を手にしたことがはっきりと示された・・・」と、戦争のイメージに始まり、最後の一節は、「世界はこの広島によって一変しました。しかし、今日、広島の子どもたちは平和な日々を生きています。何と貴重なことでしょうか」とあります。地獄の如き状況すら変化させられた、その変化が平和な生活をもたらしたと示され、「この(平和な)生活は、まもる価値がある、それをすべての子どもに広げねばならない。その(変化した)未来こそ、私たちが選択すべき未来であり、その未来において、広島と長崎が、核戦争の夜明けでなく、道義的な目覚めの地として記憶されるべきだ」と、未来への願望を述べておられます。

日本語全文と英語ビデオ: http://iinee-news.com/post-8698/

2017.7.12 アメリカは、自由と正義の国ですが、昨今、人種対立をあおるような事件が続きすぎています。ダラス警官銃撃事件追悼式スピーチでは、「公正な怒りは正義と平和に変わりうる」という言葉があります。対立構造そのものを否定し、正義ある平和な地(と時代)になるべきと説かれた、と思います。また、「私たちは、このような絶望を拒絶すべきです。分裂してはならない・・・」と、昨今の憎しみが蔓延しているかのような社会を否定された居るようにも思いました。
英語全文:https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2016/07/12/remarks-president-memorial-service-fallen-dallas-police-officers