[会長ブログ ― ネコの目]
高齢者の健康と孤独・孤立

「この世で一番強いのは孤独な人間だ」とは、確か、劇作家イプセンの言葉です。威勢の良い言葉です・・・でした。

診療と同時に、まがりなりにも研究に時間を割いていた日々をはなれて、もう30年は経ってしまったこともありますが、近頃は、インターネットで要約が読めることもあって、きちんと論文を読まなくなっています。でも、いじましく、読んでみたいとネットを渉猟しています。そんな中で、ここしばらくloneliness(孤独)という文字が目につきます。そのような論文が急増しているのではなく、独居高齢者特有の気分によるのかもしれませんが、ちょっとあさってみました。

最初に、目についたのは、行動医学紀要(Annals of Behavioral Medicine)という雑誌の論文要約でした。

社会的に孤立して孤独でいることは、特に年寄りの健康と幸福(well-being)にとって危険との認識は世界的に広がっていると、この論文は指摘しています。ただし、自ら独居を望み自立を楽しむ人もいるので、「孤独」と「独居」は、必ずしもイコールではないとしています。なるほど!!独り者の勝手気ままな生活もあり、ですね。が、逆に、感情的に孤独!!と感じるのは、(たとえば、家族の中にいても)「さみしい、一人ぼっち・・」と思う個人の精神的状態によるのだと指摘しています。確かに、いっぱい、人がいることと、誰かが誰かに気を付ける(英語ではconcernという言葉が該当する)は、大いに違います。

この論文の著者らは、50才以上のイギリス人3,000人に行った調査について述べています。結果は、当然のような気もしますが、孤立しておらず孤独でない人は、メタボ傾向がなく、喫煙せず、より健康的な行動をしている・・・そうです。

孤立している、あるいは孤独だと感じている年寄りは、家族や友人のことを思って、健康であろうとする意欲がない、あるいは健康でいようと努力することを助ける人がいない・・・のかもしれないとも指摘しています。(たくさん時間があってやろうと思えばできるのに)独居者が健康的な行動を行わないのは、実際に、社会とつながっていることこそが健康的な行動を続ける理由なのだろうとも推測しています。

さらに、今後、高齢者の健康にとって、どのような社会とのつながり方が必要か、たとえば、家族や知人との顔を見て話す、あるいは電話でもよいのか、などなど考えるべきと述べています。そして、現在は、ソシアルメディア蔓延だが、高齢者の健康に対するオンラインの影響は、まだ、判っていないとしています。なるほど!!私に関しては、携帯は、色々な方とのつながりの最大のツールです。国籍、性別、肌の色、社会的立場、職業を問わず、8才から92才までのメル友がいます。

その他、以下の論文を斜め読みしながら、思うことあります。

現在45カ所になった「日本財団在宅看護センターネットワーク」の仲間たちが、各地で始めている「XXXカフェ」や「YYYサロン」の効果です。それらは、その地の人々の健康や社会とのつながりにどうかかわっているのか。各地の高齢者のお顔はいかならん?イザ!!見学にまいるべし。

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目についた論文

社会との関係と健康 Social relationships and health Science241: 540-45,1988

ヒトも動物も、群れ/社会と連携していないと健康の質や量(寿命)が悪く、死亡率が高いそうで、そのメカニズムは不明と述べている。古い論文。

・なぜ孤独はあなたの健康に悪いのか?Why Loneliness Is Hazardous to Your Health. Science 331:138-140, 2011 http://science.sciencemag.org/content/sci/331/6014/138.full.pdf

大学入学、就職など人が孤独を感じることは沢山あるが、長期間の孤独は、心血管、免疫、神経系に悪影響を及ぼし、独居者が短命であるかについての研究を解説。

・ 高齢者の孤独 Loneliness in Older Persons Arch Intern Med. 172:1078-1083. 2012 doi:10.1001/archinternmed.2012.1993

60才以上のアメリカ人1,604名について調べた結果、孤独はADL(日常生活動作)の低下を来たし死亡の危険性を高めていることを報告。

・死亡リスク要因としての孤独と社会関係 Loneliness and social isolation as risk factors for mortality. a meta-analytic review.  Perspect Psycho Sci 10:227-37, 2015

1980~2014年の孤独、社会的孤立、独居生活の影響と死亡に関する論文のメタ解析。初期健康状態の影響はあるが、性別、追跡期間、世界の地域によらず、社会的孤立は他の確立死亡リスク同様に危険。特に65才未満ではより危険。

・孤立と孤独者における過剰死亡リスクの影響。英国バイオバンクのコホート研究によるデータの分析 Contribution of risk factors to excess mortality in isolated and lonely individuals: an analysis of data from the UK Biobank cohort study. Lancet Public Health 2: 260-266, 2017 https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(17)30075-0/fulltext

孤立、孤独による死亡率上昇は既知だが、何が真のリスクか、約47万人を6年半追跡して分析。

社会的孤立、孤独と死亡の関連性の解明Unravelling the associations between social isolation, loneliness, and mortality Lancet Pub. Health e249-250, 2017

孤立、独居が死亡リスクとされるが、健康状態の劣化が孤立や独居をもたらすのではないか、また、喫煙や社会的不平等も影響するのでは・・

増えている孤独問題 The growing problem of loneliness. Lancet 391,426, 2018 https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2818%2930142-9

イライラや死亡率増加が孤独と関係する。

高齢者における社会的孤立、孤独と健康行動Social isolation, loneliness, and health behaviors at older ages: Longitudinal cohog study. Ann Behave.Med. 52:582-592, 2018  doi:10.1903/abm/kax033

52歳以上のイギリス人3,392人についての10年間の経過観察。孤立は健康行動と関係するが、禁煙とも関係している。

・1/3が孤独なアメリカ人、どうすれは良い?One in three older Americans is lonely. Here’s what can help. TIME Sept. 24, 2018 http://time.com/5404616/older-adults-loneliness/

アメリカでは18~22才と高齢者が最孤独。45歳以上の1/3は孤独と申告。物理的孤立や社会活動がないのが最悪。信仰グループに属するか、結婚しているか、定期的性活動があればそうでない。

・睡眠不足が社会からの逸脱と孤独を作るSleep loss causes social withdrawal and loneliness. Nature Communication.(2018) 9:3146 https://www.nature.com/articles/s41467-018-05377-0.pdf

孤独は睡眠障害を起こすが、逆に、不眠や睡眠の質が悪いと社会性を損ない孤独、孤立をきたす。