[活動レポート ― ハンセン病]
ネパールの貧しい村での栄養教育を支援しました

ネパールは2009年に国レベルではハンセン病の制圧は達成しているものの、いまだに毎年3000人強の新規患者が出ています。(世界で6番目に多い)特にネパール南部のインドとの国境地帯の多くは郡レベルでは制圧が達成されていません。免疫力はハンセン病の発症に関わる要因の一つですが、その免疫力は、人々の栄養状態に大きく左右されます。そのため、ネパール国内のハンセン病基幹病院の1つであるNLTラルガーハンセン病病院&サービスセンター(注1)から、ハンセン病蔓延地の中でも特に栄養状態が低いとされる2地域においてハンセン病の発症と拡がりを抑えるために、栄養教育プログラムを実施したいとの要請があり、当財団は、2017年8月から2018年7月の期間でこのNLTを通して支援を実施いたしました。

各家庭で野菜が栽培されるようになりました

ラジコール村でのセミナーの様子      

対象地は、Dalits(ダリッツ)と呼ばれるカースト制度の最下層民が総人口の90%を占めるネパールマホトリ郡のRajkhor(ラジコール)村とサラヒ郡のKhoriya(コリヤ)村で、生まれながらに土地をもつことが許されず、多くの人が季節労働により収入を得ているような貧しい生活を送っている地域です。この地域は各家庭にトイレも殆どなく衛生状態は劣悪な状況でした。また、女性の地位は低く、若年での婚姻・出産が多く、それが低栄養児の出産の主な原因となっており、今回の栄養教育プログラムを実施する前は、この地域では5歳以下の子どもの58%が低栄養状態でした。

低栄養児には栄養補給のオートミールが配給されました

低栄養児には栄養補給のオートミールが配給されました

そこで、①妊婦、母親、子供が健康を保つために栄養の重要性を認識させること、②妊婦と母親に保健所で産前産後ケアを受けるように教育すること、③栄養・衛生教育グループを設立して家庭菜園やトイレを各家庭に設置するように推奨すること、を目的に本事業は実施されました。その結果、2村で合計18回の栄養・保健教育セミナー(幼児の栄養・妊婦の栄養・適切な調理・適切な食品保存・衛生・定期的駆虫・予防接種・家族計画、家庭菜園)が実施され、130名が受講しました。また、11の家庭菜園支援、低栄養7人の子供支援、90家族への衛生キットの配布、2つの共同給水所(手漕ぎ井戸)の補修、83の簡易トイレ設置支援も同時に行われました。

子どもがいる家庭には衛生キットが配給されました

衛生キットの中身(石鹸、歯ブラシセット、爪切り、耳かき、舌汚れクリーナー)

この栄養プログラムのおかげで、多くの母親たちが栄養や健康に関してめざましく意識が高まり、二つの村の全ての妊婦が産前産後ケアを受けるようになりました。また、全ての子供たちが学校で予防接種を確実に受けられるようになりました。そして、母親からその子供たちまで将来的にも適切な栄養と衛生状態を保ち健康を維持することが可能となりました。

栄養教育を受けた母親から生まれた赤ちゃんたち

栄養教育を受けた母親から生まれた赤ちゃんたち

注1:NLTは1972年に設立され、ネパール中部カトマンズ及びジャナクプール県の4郡(Dhanusha, Mahottari, Sarlahi, Sinduli,)において政府との合意の下でハンセン病対策活動への協力を行うと共に、回復者の社会的経済的自立を促進する活動を行っています。特にジャナクプール県では、ラルガーハンセン病サービスセンター(Lalgadh Leprosy Service Center: LLSC)を1992年に開設しました(現在名は、ラルガーハンセン病病院&サービスセンターLalgadh Leprosy Hospital and Services Centre)。同地域は、インド国境(ビハール州)に隣接する南東タライ地域に位置し、インド人の流入の影響も受けて未だネパールで最も新患率の高い地域の一つで、当該病院・サービスセンターは同地域のハンセン病制圧活動やハンセン病回復者支援に主要な役割を果たすと共に、地域の保健医療を支える総合病院としても重要な役割を果たしています。

[活動レポート ― ハンセン病]
ガーナでハンセン病回復者たちの家が建てられました

ガーナは1998年に国レベルでハンセン病制圧目標(人口1万人当たり患者数が1人未満となること)を達成して以来、制圧レベルを維持していますが、北部ではハンセン病の有病率がいまだに高い地域も残されています。それらの地域では、ハンセン病に対する偏見や差別が根強く残り、医療面・社会面の双方の活動が必要不可欠でした。IDEAガーナ(注1)は、その北部を中心にガーナ社会で非常に重要な役割を担うチーフの協力を得て、定着村とその周辺でハンセン病の啓発活動を行った結果、数年でガーナの偏見と差別の問題は急速な進展を見せました。そして、過去数十年にわたってハンセン病定着村で暮らしていた回復者の約800人が帰郷を果たし、現在でも故郷で家族と暮らしています。

IDEAガーナのメンバーは、9人の故郷の村のすべてを巡回し、村長、村チーフ、村民、地区/州チーフを交えての啓発集会を行いました。その結果、住む家さえあれば、村での生活には不自由がないようにすることが約束されました。
現在、ガーナではハンセン病は外来での治療が可能であり、偏見や差別の問題もほぼ解決しており、ハンセン病問題は、この9人の帰郷でほぼ解決するものと言えます。そこで当財団では、ガーナのハンセン病問題の最終解決のために、9人の家屋を建築して帰郷を支援することにしました。2017年度は5名、2018年度は4名の家屋建築を支援しました。

建築中の家屋

建築中の家屋

すでに2017年に家が完成し、故郷での暮らすようになったEkua Ketsiwa(エクア)さんからは、「お金がないために家を建てられなかったので、これまで37年もハンセン病回復者キャンプ(回復者村)に住んでいました。村のほとんどの家は土でできている中、セメントレンガ建ての立派な家を造っていただいたおかげで、村の重要人物とみてもらえ、人々が尊敬してくれるようになりました。このような家に住めて本当に幸せです。」との報告がありました。

コンクリート造りの立派な家ができました

エクアさんに新築の家の鍵が手渡されました


注1:
IDEAガーナは、2003年に設立され、ハンセン病回復者やその家族の尊厳の回復や社会復帰を目指して活動を開始し、ハンセン病回復者のために主に井戸やマーケット建設などの生活環境改善や啓発活動を積極的に行っています。これまではハンセン病に対する正しい知識と理解がなかったことから、エチオピア社会では回復者に対する偏見や差別が厳しかったものが、IDEAガーナのメンバーによって病気や障がいに関する正しい知識の伝達や回復者の尊厳ある人生の語りの会を開催するに従って、人々のハンセン病に対する見方や回復者に対する接し方が急速に変化しました。

[活動レポート ― ハンセン病]
フィリピンでハンセン病回復者やその子女たちに対して職業技能習得支援を行っています。

フィリピンでは1906年のクリオン島ハンセン病療養所の開設に始まって全国に8国立ハンセン病療養所が設立されました。1998年にフィリピンは公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧を達成しましたが、現在でも毎年2000人弱の新たな患者が出ています。一方でフィリピンでは教育は地域的なばらつきが大きく、平均として38%程度が小学校も卒業していません。各療養所に近い地域はさらに悪い状況で、特にムスリム・ミンダナオ自治区(スールー療養所付近)では6割が小学校も卒業していません。また、ミマロパ(クリオン療養所付近)、ビコール(ビコール療養所付近)、サンボアンガ(ミンダナオ中央療養所付近)、西ヴィサヤ(西ヴィサヤ療養所付近)、中央ヴィサヤ(エバースレイ・チャイルズ療養所付近)、ソクサージェン(コタバト療養所付近)でも小学校卒業以降に学校教育を受けていない人口が5割から6割強と、最終学歴が相対的に低くなっています。ましてや高等教育や職業技能の機会は地理的、金銭的に多くのハンセン病回復者やその子女には手に入れがたい状況になっています。

縫製業の訓練の様子

縫製業の訓練の様子

このような状況を踏まえて、当財団は、2017年9月から2019年3月までの1年半でフィリピン国内の療養所付近のコミュニティで暮らす回復者やその子女たちに対して、ハンセン病による偏見や貧困の連鎖を断ち切ることを目的に、一般社会で安定した職業につく手段としての高等教育や政府認定の資格がある職業技能の習得支援をフィリピンの各地域で活動しているハンセン病回復者団体とそれらを統括しているハンセン病当事者ネットワーク団体のCLAP(クラップ)を通して行うことにしました。

まだ足踏みミシンも現役で使われています

まだ足踏みミシンも現役で使われています

2017年9月から2018年8月は、訓練費のみならず、訓練に伴う交通費や諸経費を賄うための支援をマニラの2団体、西ヴィサヤの1団体、ミンダナオの1団体、コタバトの1団体を通して合計72名に1人当たりおおよそ日本円で5000円から2万円程度の奨学金が付与されました。これらの訓練生は、主に、紳士服仕立て業、婦人服仕立て業、高速縫製業、美容業、家事代行業、そして洗剤製造技能の訓練を行いました。
2018年9月から2019年3月にかけては、さらに80名程度のハンセン病回復者やその子女たちの支援を行う予定です。

洗剤製造技能養成講座受講者たち

洗剤製造技能養成講座受講者たち

[活動レポート ― ハンセン病]
中国雲南省のハンセン病回復者村の衛生環境が改善されました!

  雲南省の毛王洞(マオワンドン)村と螺線管村(ラオシャンガン)村は、1950年代にできたハンセン病定着村で、毛王洞村には老若男女21家族96名が住んでいます。一方で螺線管村には男性11名、女性9名の計20人しか住んでいないのですが、平均年齢は70才以上と高齢で半数の人は脚が不自由です。これらの村の村民が健康で安全に生活が出来るように、当財団は、中国のハンセン病回復者支援団体であるHANDA(ハンダ:広東省漢達康福協会)(注1)を通して、2017年後半から2018年前半にかけて衛生教育ならびに衛生環境整備等を行いました。

衛生教育を指導している様子

衛生教育を指導している様子

歯磨き指導を受けている様子

歯磨き指導を受けている様子

  まず、毛王洞村では主に女性と子供を対象に衛生教育が行われました。以前、この村では教育水準の低さから健康に関する意識が低く、特に女性たちは自分自身を清潔にする知識やシャワーを浴びて毎日して身体をきれいに保つという意識がないため、95%が婦人科の病気を持っていました。今回、多くの村民が衛生教育を受けることにより、意識が高くなり病気を防ぐことができるようになりました。また子供たちへの公衆衛生教育によって子供たちは将来的にも健康を維持することが可能となりました。
  次に、毛王洞村内の二つの集落をつなぐ道路の修復・舗装が行われました。道幅3メートル、長さ500メートルの道路を全21家族が助け合って修復、舗装しました。これまでは雨が降ると道がぬかるみ、人のみならず家畜さえも通行ができませんでしたが、現在は舗装され村の人々の安全が確保されるようになりました。

道路の工事前

道路の工事前

工事後

工事後

  さらに、毛王洞村にて、11の浴室設置工事が行われました。これまでこの村では浴室がある家はなく、薪を焚いてお湯を沸かし、そのお湯で身体を洗っていましたが、今回太陽光熱発電によりすぐに温水が出るようにソーラーパネル付きの浴室が設置されました。これにより村民はいつでもシャワーを浴びることが出来るようになり、身体を清潔に保てるようになりました。

新設された浴室とソーラーパネル

新設された浴室とソーラーパネル

  螺線管(ラオシャンガン)村では環境整備を行いました。螺線管村は高齢者が多いため、まず高齢者が安全に暮らせるようにいくつかの坂道やスロープに手すりを設置しました。また、皆が毎日顔を合わせて談笑できる場所を設置して、椅子とテーブルを置きました。

何もなくて滑り落ちそうな坂道

何もなくて滑り落ちそうな坂道

手すりがついた坂道

手すりがついた坂道

村民が集う場所が出来て互いを思いやるようになりました

村民が集う場所が出来て互いを思いやるようになりました

注1:
HANDA(Guangdong HANDA Rehabilitation and Welfare Association:広東省漢達康福協会)は1996年に設立された中国の広西省、広東省、雲南省で活動しているハンセン病回復者支援団体です。回復者の経済自立支援、回復者やその子どもたちの初等教育から高等教育までの教育支援、生活環境向上、職業訓練、啓発冊子の制作まで、幅広い活動を行い、5000人強の回復者やその家族たちを毎年支援しています。
HANDAのホームページ

[活動レポート ― ハンセン病]
ミャンマー初等中等教育

ミャンマーは、1998年にMDTを導入し、2003年に国レベルでハンセン病制圧目標(人口1万人当たり患者数が1人未満となること)を達成しました。しかし、ミャンマーは広い辺境地域と多くの少数民族を持つために、地域レベルでは、未達成の地域もあり、ハンセン病に伴う偏見・差別も根強く残っています。ハンセン病患者・回復者及びその家族は、そのような偏見・差別によりさまざまな困難・制約に直面しています。ハンセン病を親が患ったことから、貧困・偏見・差別により、その子どもたちが教育を受けられないこともあります。

このような状況を踏まえ、2017年4月から2018年3月までミャンマー国内14か所のハンセン病の回復者とその家族たちが住む村(コロニー)において、ハンセン病患者・回復者の子供たちの教育状況改善のために、294人の子供たちへの教育支援をMAM(マム)(注1)を通じて行いました。具体的には、子どもたちの学費や制服代、文具費、昼食代を賄うための奨学金の付与です。294人のうち85人は小学生、154人は中学生、43人は高校生、12人は大学生でした。

教育支援を受けた子供たちが通う小学校にて

教育支援を受けた子供たちが通う小学校にて

この教育支援は、貧しいハンセン病患者・回復者が子どもたちを学校に通わせるきっかけとなり、子どもたちは定期的に学校に通えるようになりました。実際に支援をした村々では、例年15%程度の子供たちが学校を中途退学せざるをえなかったのですが、現在ではそれが5%となりました。

小学校で給食を食べている様子(給食は子供たちにとって貴重な栄養を得られると共に、学校へ行くモチベーションにもなる楽しい時間です。)

小学校で給食のスープを食べている様子(給食は子供たちにとって貴重な栄養を得られるとともに、楽しいひとときです。)

また、この教育支援によりこれらの村の子供たちの知識、態度、行動にも改善がみられ、教育支援を行った各地域において、ハンセン病回復者やその家族たちに対するイメージが向上したという波及効果もみられました。

 

注1:MAM(マム)は正式名をMyitta Arr Marn(ミャンマー語で「よりよい希望の力」)といい、2006年4月に元保健省職員が中心となってミャンマー初のハンセン病回復者のためのエンパワーメント・ワークショップが開催された際に、参加した回復者たちによって設立されたハンセン病回復者組織で、ハンセン病回復者の自立と尊厳の回復を目指して活動を続けています。ミャンマーにある14か所の全てのコロニーに支部(SUB-MAM)を立ち上げて、各地においてハンセン病患者や回復者に寄り添った支援を行っています。

[活動レポート ― ハンセン病]
バングラデシュ栄養教育

バングラデシュは、1998年に公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧を達成しているものの、毎年約3,000人強の新たな患者が出ており、ハンセン病はいまもなお大きな問題となっています。また、同国における国民の栄養状態は悪く、全国の5歳以下の子どものうち36%が栄養失調です(1996年は60%)。低栄養はハンセン病の臨床症状に大きく影響するリスク要因であり、病気の感染・発症を防ぐためにも、バングラデシュにおいて国民の栄養状態を改善することは重要といえます。

 

このような背景の中、2017年7月よりバングラデシュ北部の古都ボグラ県のハンセン病定着村において、Lepra(レプラ)(注1)を通じてBogra District Federation(ボグラ地域連合)(注2)によって、ハンセン病回復者や障害者、特に女性や子供達のために活動を行っている自助グループのメンバーが、バランスのよい食事の重要性を学び、栄養がある食事を提供・摂取できるようになることを目的に栄養教育の事業を開始しました。

 

自助グループの勉強会に参加する女性たちとその子供達

自助グループの勉強会に参加する女性たちとその子供達

まず、12ある女性の自助グループの各リーダーたちが栄養教育を受けました。その後、そのリーダーたちが自助グループのメンバーに半年間で860回以上の栄養教育の勉強会を開きました。それには自助グループメンバーだけでなくその家族や近隣の人たちも含めて半年間で4,000人以上が参加しました。最終的には10,000人の人々が栄養教育を受ける見込みです。加えて、野菜栽培とその調理指導教室も半年間で60回開かれ、600人以上が参加しました。こちらも最終的には1000人が受講予定です。

 

この地域では以前は、わずか10%の女性だけが健康的な食事が摂れていたとされていましたが、このような栄養教育を多くの女性たちが受講することにより、自分自身や子供達の栄養について考えるようになり、健康的な食事が摂取できるようになりました。

 

自助グループの女性たちの調理指導教室の様子

自助グループの女性たちの調理指導教室の様子

前述した通り、栄養状態が悪いこととハンセン病に感染することには関連性があるとの研究結果が出ており、今回、栄養教育を学んだ母親たちによって、子供たちの栄養状態が良くなることで、将来的にハンセン病を発症するリスクを減らすことが可能となります。

 

注1:Lepra(レプラ)は、1924年より英国に本拠地をおいてハンセン病関連の活動をしている団体です。モザンビーク、アンゴラ、ブラジル、マラウィ、バングラデシュ、インドを中心に啓発活動、早期発見・治療活動、保健システムの改善等を行っています。

Lepraのホームページ https://www.lepra.org.uk

上記事業の紹介もHPでしています。https://www.lepra.org.uk/nutrition-education-project

 

注2:Bogra District Federation(ボグラ地域連合)はボグラ県を代表するハンセン病の回復者団体です。おおよそ1000人のメンバーで構成する自助グループのネットワークがあり、1か月に2回定期的に会合を持って参加者に新しいスキルを学ばせたり、問題を話し合ったりしています。

[活動レポート ― ハンセン病]
統合的な疾病対策促進活動 ― ハンセン病の症例分布調査 ―

世界にまだいくつか残っているハンセン病の蔓延地の多くは、保健医療へのアクセスが非常に困難な地にあります。そこで当財団では、ハンセン病対策を他の疾病対策と統合し、保健医療へのアクセス拡大を図る活動への支援を行いました。

 

ハンセン病の症例が今日なお多くみられるアジアやアフリカ諸国では、その他の顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)(注1)の問題も抱えており、その対策活動が進んでいます。そこで、ハンセン病の症例の地理的分布調査を行い、他のNTDsの症例分布と照らし合わせ、協働することができる地域を特定し、それらの疾病対策と統合したより効果的な保健医療サービスの提供制度を構築するための仕組みづくりが開始されました。この活動は、American Leprosy Mission(ALM:アメリカ救らい協会)(注2)が主導して、Accelerating Integrated Management (AIM:統合的疾病対策促進)(注3)チームが行っており、当財団はその初期段階であるハンセン病の症例の分布調査への支援を行いました。

現地状況調査のための保健職員による住民への聞き取り(リベリア)

現地状況調査のための保健職員による住民への聞き取り   (リベリア)

 

2018年初頭までに、カメルーン、ナイジェリア、モザンビーク、リベリア、ガーナ、ミャンマー、スリランカの7ヵ国で、各国保健省の合意と関係NGOの協力を取り付け、調査活動が実施されています。分布調査が完了したミャンマーでは、この情報を基に、他疾病と協働した患者発見活動や、ハンセン病予防薬のパイロット実施地の選定を行うなど、新しい取り組みを推進しています。また、ナイジェリアでは、完成した症例分布図の有効性を維持するために、最新の症例データを収集するためのシステム開発とその導入も進められています。これから、他の国々でも分布調査を完了させ、効果的な保健医療の提供を可能にするシステムの実現が期待されています。

 

ガーナ沿岸地域の感染症の症例分布(赤:ブルーリ潰瘍、黄:ハンセン病、青:象皮病)

ガーナ沿岸地域の感染症の症例分布(赤:ブルーリ潰瘍、黄:ハンセン病、青:象皮病)

注1:顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)とは、熱帯地域を中心に蔓延している寄生虫や細菌による感染症のことで、貧困層を中心に世界の約10億人が感染し、年間50万人が死亡していると言われています。これらの熱帯病は先進国でほとんど症例がないために、世界の3大感染症であるエイズ、結核、マラリアと比べて、これまで世界の関心を集めることがありませんでした。ハンセン病もこのNTDsの一つとなります。

 

 

注2: American Leprosy Mission(ALM:アメリカ救らい協会)は100年以上前から米国の南カロライナ州を本拠地に世界中でハンセン病患者や回復者のための支援活動を行っています。最近はコートジボワール、コンゴ共和国、インド、リベリア、ミャンマー、ネパール、フィリピン、コンゴ民主共和国の8か国において事業を展開しています。

American Leprosy Missionのホームページ https://www.leprosy.org/

 

注3:Accelerating Integrated Management(AIM:統合的疾病対策促進)事業はALMとロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院、ガーナ保健省との共同チームによって開始され、統合的な疾病対策促進活動を各国の保健省やNGO等と協力して進めています。

Accelerating Integrated Managementのホームページ http://aiminitiative.org/

[活動レポート ― ハンセン病]
ハンセン病定着村における環境改善 ミャンマーより

ミャンマー東部の国境付近に位置するシャン州は、独立を求める少数民族が多く暮らし、武装組織との戦闘が多発しており、政治的に不安定な地域です。またアクセスが困難なため医療システムも機能していない地域も多くみられます。ハンセン病の罹患率も高く、州内にはハンセン病定着村も複数ありますが、そこでの生活環境は厳しく、学校さえもありません。これらの状況を改善するために、シャン州の8つのハンセン病定着村において、水タンクの設置や小学校建設などの環境改善活動への支援が2017年に開始されました。この支援はThe Leprosy Mission(TLM:英国救らいミッション)ミャンマー事務所(注1)を通して、シャン州で30年以上もハンセン病関連の活動をしているChristian Leprosy Mission, Eastern Shan(CLEMES:東シャン州キリスト教救らいミッション)(注2)が実施しています。

これらの活動は、各々の村で住民主体が参加型で行うことによって、住民一人一人の自尊心や村への想いを高めるとともに、長年ハンセン病定着村として差別の対象とされてきた村が、周辺の住民たちによって差別されず、「ひとつの村」として認識されるようになることを目的に実施されています。

Le Po(ルポ)村では住民たちが衛生環境を向上するために、まず水タンク建設に協力しました。タンクの土台をつくるために、女性たちもセメント作りに積極的に参加し、一丸となり完成させました。そしてパイプをつなげて水路をつくり、水を村に運べるようになりました。上水道が整備されたことにより、衛生状態が改善し、さまざまな感染症の罹患率も下がることが期待されています。

また、この村は周囲から隔絶した場所にあるため、これまで住民の子どもたちは、学校に通うことができませんでしたが、来年までに小学校が建設されることになりました。ここでの小学校の建設は、これまで子どもたちに教育の機会を与えたいと願っていた親たち、又、将来の夢を描くことができなかった子どもたちにとって、大きな希望となっています。これから将来を担う子どもたちが、学ぶ喜びを得ることにより、いままでは考えられなかったような大きな夢を持つこともできるようになるでしょう。

ミャンマー環境改善

 水タンクをつくるために、セメント作りから住民が取り組みます。
その過程には、女性も積極的に参加し、住民全体の強いオーナーシップが芽生え、
よりよい管理体制も期待されます。

ミャンマー環境改善2

 学校建設予定地で、完成を心待ちにしている子どもたち。
校舎の支柱となる木材は、周辺の山々から木を伐採して村へ運んできました。

注1:The Leprosy Mission(TLM:英国救らいミッション)は、英国を本拠地に130年以上もハンセン病関連の活動を行っているキリスト教団体で、ミャンマーでは1898年より地元のキリスト教団体や病院と一緒に活動を行っています。現在、TLMはミャンマーではハンセン病と障がい者問題のリーダー的な存在です。主に保健サービスや公共の場へハンセン病患者や障がい者がアクセスしやすいようにしたり、偏見差別をなくし、ハンセン病患者や障がい者の社会参加を促したりする活動を行っています。
The Leprosy Missionのホームページ

注2:Christian Leprosy Mission, Eastern Shan(CLEMES:東シャン州キリスト教救らいミッション)は、シャン州の少数民族が多い地域でキリスト教会によって30年前からハンセン病や貧困と立ち向かうことを目的に活動が開始され、現在では医療アシスタント、患者の潰瘍の処置をはじめ、重力フロー給水、バイオサンドフィルター、衛生設備、小学校建設などの社会インフラにかかる活動も行っています。

[活動レポート ― ハンセン病]
ハンセン病定着村における環境改善 インドネシアより

学生などの青年がハンセン病定着村に数週間暮らしながら(キャンプ)、村の清掃活動や道路整備などの環境改善活動(ワーク)を行うことをワークキャンプと呼んでいます。住民である回復者と交流を重ねることを通じて、青年自身の心身の向上にもつながっていると、現地ならびに国内でも高い評価が寄せられています。

 

ワークキャンプ運営団体Leprosy Care Community(LCC)注1は、東ジャワ州ンガンゲット村で活動を行っています。インドネシアでは、ハンセン病患者や回復者、その家族への偏見・差別が、未だに根強く、深刻な問題となっているため、ハンセン病定着村におけるワークキャンプ活動は、インフラ整備による生活環境の改善だけでなく、村の中と外の一般社会をつなぐ架け橋にもなっています。

 

回復者の家族、特に子どもたちは、進学や就職などの理由により、村を出た後、戻らないことが多くあります。そのため、村には高齢者のみが残り、村の発展が期待できないという状況が多くの定着村に共通してみられます。ンガンゲット村も例外でなく、回復者の子どもたちは、村を「故郷」と考えず、都会へ出て働きたいという希望が多くありました。そこで、LCCは、村の住民と村の将来像を描くことから始めました。若者を中心とした集会を開き、清掃活動を行うと共に、村の中に湧いている温泉にも注目しました。温泉周辺の環境整備を行ったところ、村の外からの利用者が増えました。

温泉に続く道に手すりを付け、歩きやすくなりました

温泉に続く道に手すりを付け、歩きやすくなりました

 

建設した更衣室は、村の外からの利用者に好評です

建設した更衣室は、村の外からの利用者に好評です

そこで、2017年度は、温泉をより多くの人々が利用するようになるために、温泉へ続く道の舗装と更衣室の建設を行いました。その結果、ンガンゲット村がハンセン病定着村であることを気にせず温泉を利用する人が多くなり、温泉の駐車料金などの支払いを通じて、村の収入が増え、村の中でも働く機会を得られるようになりました。いま、若者たちは、温泉施設への注目を通して、村への「故郷」としての誇りが生まれ、自分たちの手で、村の将来をどうするか、考え始めています。今後のンガンゲット村の発展が大きく期待されます。

 

 

 

 

注1:

Leprosy Care Community (LCC) は、2010年の設立以来、年々活動範囲を拡げ現在では4か所でワークキャンプが実施されています。

http://www.lccui.com/

インドネシアでは2018年度に、こうした各地のワークキャンプをコーディネートする組織として「JALAN Indonesia Work Camp CoordinateCenter」が立ち上がりました。

 

[活動レポート ― ハンセン病]
世界のハンセン病の今とこれから ~官民パートナーの協力による制圧に向けて~ 

世界保健機関 (World Health Organization: WHO) は、世界のハンセン病対策に熱心に取り組んでいます。笹川記念保健協力財団は1974年の設立以来、日本財団と共にその活動を40年以上にわたって支援してきました。かつては世界で推定1千万人以上の患者がいたハンセン病ですが、1980年代初めに開発された治療薬(MDT)と1991年の世界保健総会での数値目標を伴う制圧決議により、官民が同じ目標に向かって努力をした結果、今日までにその数は20万人台まで減少しました。しかし、皮肉な事に、患者の減少により、社会におけるハンセン病への関心が急速に薄れてきています。関心の薄れは、対策活動をするNGOへの寄付の減少、政府や研究機関での予算削減を招き、世界のハンセン病対策を指導・監督するWHOは大きな困難に直面しています。

WHOのガイドブック 「2016-2020世界のハンセン病戦略 ~ハンセン病のない世界をめざして」

WHOのガイドブック 「2016-2020世界のハンセン病戦略 ~ハンセン病のない世界をめざして~」

WHOは5年毎に対策活動の評価を行い、新たな戦略を発表しています。現在の戦略「2016-2020:ハンセン病のない世界を目指して」は、患者を減らすだけでなく、ハンセン病に伴う障がい(特に子供の障がいをゼロとする)、偏見・差別を無くすと共に、各国政府の対策活動への更なる努力とNGOとの協働の強化を大きな目標としています。

一目でわかるハンセン病戦略: 自転車の前輪は病気を治すこと、後輪は社会的烙印や差別のない社会の実現を示し、両輪がかみあってはじめて、ハンセン病のない世界に向かって走ることができる

一目でわかるハンセン病戦略:
自転車の前輪は病気の治癒、後輪は社会的烙印や差別のない社会の実現を表し、両輪がかみあってはじめて、ハンセン病のない世界に向かって走り出すことができる

日本財団はWHOのハンセン病対策活動に対して資金援助をしており、笹川記念保健協力財団は日本財団からの要請により、回復者を含むハンセン病の世界的専門家からなる諮問委員会を編成し、毎年WHOの活動評価を行っています。今年は、12月11-12日の2日間、インド、デリーのWHO南東アジア地域事務所で委員会を開催しました。WHOの6つの地域事務局のうち、ヨーロッパを除く5地域のハンセン病担当官と世界全体を統括するチームリーダーが出席し、現状と問題点、次年度の計画に関する議論に加え、今年は、過去10年間新患数に変化が無いという停滞を突破するための新しい対策手法に関する研究開発状況などを含む、中長期的対策活動に関する突っ込んだ議論がなされました。

民族衣装サリーを着た南東アジア地域事務局長、「RDマダム」(中央)の挨拶民族衣装サリーを着たシン南東アジア地域事務局長(中央)の挨拶

長く、医療的な側面のみ捉えられてきたハンセン病問題ですが、その根源的な解決には、患者数を減らすだけではなく、偏見と差別の問題に取り組む必要があります。ハンセン病にかかったから、そしてハンセン病にかかった家族がいるから、何千万、何億という人々が偏見と差別の対象となってきました。差別のために社会生活が送れず、早期に診断を受けることができず、治療を完了することができないという現状を変えるためには、今後一層の努力が必要です。ハンセン病の問題は、社会と病気、病気と人生についての普遍的、かつ根源的な問いを投げかけてくれています。

南東アジア地域事務所入口。近年デリーの大気汚染はすさまじく、予防マスク姿の参加者もちらほら。

南東アジア地域事務所入口。近年デリーの大気汚染はすさまじく、予防マスク姿の参加者もちらほら

 

二日間の会議中、お昼やコーヒータイムには事務局内の食堂で一息。豆カレーやサモサ、スイーツが美味でした。写真は世界一甘いと言われる「歯が溶けそう」なスイーツ、グラブジャムーン

二日間の会議中、お昼やコーヒータイムには事務局内の食堂で一息。豆カレーやサモサ、スイーツが美味。写真は世界一甘いと言われる「歯が溶けそう」なスイーツ、グラブジャムーン


1 / 41234