[活動レポート ― ハンセン病]
ひろがるハンセン病の歴史保存の動き

1980年代の治療法の確立以降、全世界で精力的に展開された対策活動により、ハンセン病の状況 は大きく進展しました。しかし華々しい科学の勝利の一方で、ハンセン病は「終わった問題」として、その歴史は急速に忘れられつつあります。そのような中、歴史保存の動きが広がり始めています。

国立ハンセン病資料館を見学するブラジルからの参加者

国立ハンセン病資料館を見学するブラジルからの参加者


変化するハンセン病の世界
最も古い感染症の一つであるハンセン病は、その長い歴史を通し、世界各地で恐れられてきました。ハンセン 病にかかった人はその病気のために、生きる場、手段を 奪われ、偏見や差別は家族にも及びました。1980年代の有効なハンセン病治療法の確立、世界レベルでの制圧目標の決定、治療に必要な薬剤の無償配布により、登録患者数は大きく減少しました。その一方で、ハンセン病は「終わった問題」として認識されるようになり、病気と共に生きた人々の歴史、治療に尽くした人々の歴史、ハンセン病をめぐる当事者・家族・社会の歴史 は急速に忘れ去られつつあります。
なぜハンセン病の歴史を残すのか
「辛い過去は忘れたい」、「何十年もたって社会も病気のことを忘れて、差別がなくなってきたところだ。いまさら社会の人に問題を思い出させないでほしい」。さまざまな国でハンセン病の歴史を残そうとする人たちが耳にしてきた言葉です。なぜハンセン病の歴史を残すのか。病気のために差別した過去の過ちを忘れないため、医学や科学のさらなる発展のため、病気と共に生きた当事者の思いを語り継ぐため、さまざまな「問題」を持つ人々が共に生きる社会の実現に活かすためなど、理由は多くあります。日本では1970年代から、療養所入所者が史料を集め、1977年、多磨全生園の一角に、ハンセン病図書館が開館されました。この図書館に集められた資料の多くは、現在の国立ハンセン病資料館に引き継がれ、病気を体験した人たち自身による「自分たちの生きた証」である歴史を語り継いでいます。
第1回国際ハンセン病歴史保存ワークショップ
当財団と国立ハンセン病資料館は、ブラジル、マレーシア、フィリピン、台湾からの参加者と、オーストラリアの講師を招き、2012年10月第1回国際ハンセン病歴史保存ワークショップを開催しました。第1回ワークショップ終了後に大きな動きがあったのは、 フィリピンでした。当事者ネットワーク、国家歴史委員会、 国立公文書館、国立療養所、保健省が協力体制を築き、国レベルでの歴史調査と、各療養所における保存活動を開始したのです。
第2回ワークショップ
開催から2年がたった本年10月末に、タイ、ネパール、 マレーシア、コロンビアからの参加者に加え、前回ワークショップ開催後に歴史保存が大きく展開したフィリピンから講師を招き、第2回国際ハンセン病歴史保存ワークショップを開催しました。すでに自国にてなんらかの歴史保存活動を開始しているか、現実的な計画がすでに立てられており、準備を開始している参加者による今回のワークショップでは、日本とフィリピンの経験共有の後に、各国の現状と保存計画の発表を受け、その後に参加者全員で各国の保存計画について検討しました。
これから
第2回ワークショップは、特にネパールのように現在でも多くのハンセン病患者をかかえる国においては、歴史が過去の問題ではなく、現在の保健問題への注意を喚起する役割も担うことが確認されるなど、新しい学びもありました。ワークショップで出された提言は次の通りです。
*世界各国でハンセン病歴史保存に取り組む人々の ネットワークの立ち上げ
*歴史保存の取り組み共有の場/ツールの確保
*専門技術・知識の共有
*歴史保存に関する予算の確保
*各国の歴史保存計画見直し
*歴史保存に必要な国内外諸機関との関係構築
*第1回・第2回国際ハンセン病歴史保存ワークショッ プ参加者による、世界歴史保存宣言の発表
*世界ハンセン病の日での歴史保存の訴え
参加者の帰国後、コロンビアでは歴史保存委員会が組織され、活動計画を協議、タイではハンセン病ミュージ アムを作るための関係者協議が開始、ネパールではワークショップの報告がされ、これから国レベルの歴史ワークショップが計画されるなど、ワークショップ終了後も参加者は熱心に活動を続けています。各国次回のワークショップまでの展開が期待されます。
第2回国際ハンセン病歴史保存ワークショップ参加者

第2回国際ハンセン病歴史保存ワークショップ参加者