[活動レポート ― ハンセン病]
ハンセン病 いまなお残る課題

人類最古の感染症の一つと言われるハンセン病。身体的な障がいを残すことから、古くから極めて厳しい偏見と差別の対象となってきました。いまだ解明されない点が多く残るハンセン病ですが、この70 年間で、ハンセン病を取り巻く世界は、劇的に変化しました。
治る病気への道のり
身体に障がいを残す不治の病として、長く世界各地で恐れられてきたハンセン病が大きく変わったのは、1940 年代に治る病気となってからです。しかし1960 年代には、当時の治療薬の耐性菌が各地で報告されるようになりました。これに対応して1980年代初頭に開発されたのが、現在でも最も有効な治療法として使われる、多剤併用療法(MDT)です。早期に治療を始めれば、障がいを防ぐこともできます。この治療を世界各地で必要としている人に効率的に届けるためには、各国の保健省がこれを導入する必要があります。保健省と関係者が一丸となって、ハンセン病が問題とならない世界を目指すために、1991年の世界保健機関(WHO)総会において、2000 年までに世界レベルで公衆衛生上の問題としてのハンセン病を制圧する(人口1万人当たり患者数1人未満)という目標が採択されました。各国保健省やハンセン病対策に取り組んできた国際NGO は、この明確な制圧目標に向かい、活動を一気に加速させました。しかし治療薬を購入するには、莫大な予算が必要となります。笹川記念保健協力財団を始めとする国際NGOは、ハンセン病が問題となっている国に対し積極的に薬剤供与を行い、大きな成果を挙げました。なかでもハンセン病制圧への強力な後押しとなったのは、日本財団による1995 年から5 年間の、WHOを通した世界の全患者に対する治療薬(MDT)無料配布でした。治療薬の開発、世界の関係者が共有する目標、そして治療薬の無料配布という後押しを得て、1980 年代には500万人以上の登録患者がいましたが(登録されていなかった患者が多く、実際には1,000万人以上がハンセン病に罹患していたと専門家は推測しています)、現在では20万人弱にまで減りました。
MDT
現在の課題
この目覚ましい成果にもかかわらず、ハンセン病対策に影がさしはじめています。世界の年間の新規診断患者数は、過去10 年にわたり、20 ~25万人から減少が見られないのです。患者数の減少の停滞にはいくつかの原因が考えられます。第1に、患者の減少に伴いハンセン病に対する社会の関心や政府の対策活動への予算が減り、早期診断・治療などの活動そのものが停滞してきたことです。第2に、ハンセン病に対する根強い偏見や差別のため、ハンセン病と疑われても診断を受けに病院へ行かない、治療を途中で止めてしまうなどの問題が生み出されていることです。第3は、初期症状である知覚のない斑紋が現れないとハンセン病と診断できないことです。感染から発症まで、長い場合20 ~ 30 年もかかりますが、この間の無症状の感染状態を診断する方法はなく、発症前から治療を開始することができません。また、感染を予防するワクチンもありません。しかし、ハンセン病対策に関わる団体や研究者は、こうした状況に甘んじているわけではなく、現在、症状の発現を防ぐ予防内服、服用が楽な短い治療期間のMDTの開発が進められ、近いうちに使用できるようになると期待されています。また、ワクチンの開発も、インドやアメリカで進められています。
笹川記念保健協力財団とハンセン病対策
笹川記念保健協力財団は、世界からハンセン病の問題をなくすために、1974 年に設立されました。設立当初は、ハンセン病を治すことに力を注ぎ、治療薬の開発と配布、必要機材の供与、人材育成を集中的に行いました。世界のハンセン病関係者が疾病としての対策に集中していた中、当財団は、ハンセン病は医療面だけでなく、社会面の問題の解決も図らなければハンセン病問題の解決は見られないことを訴え、1990年代半ば以降は、回復者の社会経済的自立支援をはじめ、回復者団体の強化にも大きく力を入れてきました。患者数の減少に伴い、ハンセン病は「過去の病」としてみなされるようになってきました。ハンセン病問題の最終解決にはまだ長い道のりが残されていますが、世界各国ではハンセン病サービスが急速に縮小されています。
ハンセン病問題がない世界をめざし、当財団では、現在、①的確な診断と治療、フォローアップ、障がい予防と障がい悪化予防など、必要不可欠なハンセン病サービスの維持とその質の確保、②ハンセン病の歴史の現在、未来の世代への語り継ぎと啓発、③ハンセン病患者・回復者・その家族の社会的・経済的自立支援を大きな柱として、世界各国の当事者団体、ハンセン病団体、各国政府などと協力しながら活動を行っています。
ハンセン病の問題は、患者・回復者やその家族だけの問題ではありません。彼らとともに暮らしていく社会の一人一人の問題です。私たちは、この問題を解決してゆくために、彼らとともに歩み、ともに活動してゆきます。