[活動レポート ― ハンセン病]
統合的な疾病対策促進活動 ― ハンセン病の症例分布調査 ―

世界にまだいくつか残っているハンセン病の蔓延地の多くは、保健医療へのアクセスが非常に困難な地にあります。そこで当財団では、ハンセン病対策を他の疾病対策と統合し、保健医療へのアクセス拡大を図る活動への支援を行いました。

 

ハンセン病の症例が今日なお多くみられるアジアやアフリカ諸国では、その他の顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)(注1)の問題も抱えており、その対策活動が進んでいます。そこで、ハンセン病の症例の地理的分布調査を行い、他のNTDsの症例分布と照らし合わせ、協働することができる地域を特定し、それらの疾病対策と統合したより効果的な保健医療サービスの提供制度を構築するための仕組みづくりが開始されました。この活動は、American Leprosy Mission(ALM:アメリカ救らい協会)(注2)が主導して、Accelerating Integrated Management (AIM:統合的疾病対策促進)(注3)チームが行っており、当財団はその初期段階であるハンセン病の症例の分布調査への支援を行いました。

現地状況調査のための保健職員による住民への聞き取り(リベリア)

現地状況調査のための保健職員による住民への聞き取り   (リベリア)

 

2018年初頭までに、カメルーン、ナイジェリア、モザンビーク、リベリア、ガーナ、ミャンマー、スリランカの7ヵ国で、各国保健省の合意と関係NGOの協力を取り付け、調査活動が実施されています。分布調査が完了したミャンマーでは、この情報を基に、他疾病と協働した患者発見活動や、ハンセン病予防薬のパイロット実施地の選定を行うなど、新しい取り組みを推進しています。また、ナイジェリアでは、完成した症例分布図の有効性を維持するために、最新の症例データを収集するためのシステム開発とその導入も進められています。これから、他の国々でも分布調査を完了させ、効果的な保健医療の提供を可能にするシステムの実現が期待されています。

 

ガーナ沿岸地域の感染症の症例分布(赤:ブルーリ潰瘍、黄:ハンセン病、青:象皮病)

ガーナ沿岸地域の感染症の症例分布(赤:ブルーリ潰瘍、黄:ハンセン病、青:象皮病)

注1:顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)とは、熱帯地域を中心に蔓延している寄生虫や細菌による感染症のことで、貧困層を中心に世界の約10億人が感染し、年間50万人が死亡していると言われています。これらの熱帯病は先進国でほとんど症例がないために、世界の3大感染症であるエイズ、結核、マラリアと比べて、これまで世界の関心を集めることがありませんでした。ハンセン病もこのNTDsの一つとなります。

 

 

注2: American Leprosy Mission(ALM:アメリカ救らい協会)は100年以上前から米国の南カロライナ州を本拠地に世界中でハンセン病患者や回復者のための支援活動を行っています。最近はコートジボワール、コンゴ共和国、インド、リベリア、ミャンマー、ネパール、フィリピン、コンゴ民主共和国の8か国において事業を展開しています。

American Leprosy Missionのホームページ https://www.leprosy.org/

 

注3:Accelerating Integrated Management(AIM:統合的疾病対策促進)事業はALMとロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院、ガーナ保健省との共同チームによって開始され、統合的な疾病対策促進活動を各国の保健省やNGO等と協力して進めています。

Accelerating Integrated Managementのホームページ http://aiminitiative.org/

[活動レポート ― ハンセン病]
世界のハンセン病の今とこれから ~官民パートナーの協力による制圧に向けて~ 

世界保健機関 (World Health Organization: WHO) は、世界のハンセン病対策に熱心に取り組んでいます。笹川記念保健協力財団は1974年の設立以来、日本財団と共にその活動を40年以上にわたって支援してきました。かつては世界で推定1千万人以上の患者がいたハンセン病ですが、1980年代初めに開発された治療薬(MDT)と1991年の世界保健総会での数値目標を伴う制圧決議により、官民が同じ目標に向かって努力をした結果、今日までにその数は20万人台まで減少しました。しかし、皮肉な事に、患者の減少により、社会におけるハンセン病への関心が急速に薄れてきています。関心の薄れは、対策活動をするNGOへの寄付の減少、政府や研究機関での予算削減を招き、世界のハンセン病対策を指導・監督するWHOは大きな困難に直面しています。

WHOのガイドブック 「2016-2020世界のハンセン病戦略 ~ハンセン病のない世界をめざして」

WHOのガイドブック 「2016-2020世界のハンセン病戦略 ~ハンセン病のない世界をめざして~」

WHOは5年毎に対策活動の評価を行い、新たな戦略を発表しています。現在の戦略「2016-2020:ハンセン病のない世界を目指して」は、患者を減らすだけでなく、ハンセン病に伴う障がい(特に子供の障がいをゼロとする)、偏見・差別を無くすと共に、各国政府の対策活動への更なる努力とNGOとの協働の強化を大きな目標としています。

一目でわかるハンセン病戦略: 自転車の前輪は病気を治すこと、後輪は社会的烙印や差別のない社会の実現を示し、両輪がかみあってはじめて、ハンセン病のない世界に向かって走ることができる

一目でわかるハンセン病戦略:
自転車の前輪は病気の治癒、後輪は社会的烙印や差別のない社会の実現を表し、両輪がかみあってはじめて、ハンセン病のない世界に向かって走り出すことができる

日本財団はWHOのハンセン病対策活動に対して資金援助をしており、笹川記念保健協力財団は日本財団からの要請により、回復者を含むハンセン病の世界的専門家からなる諮問委員会を編成し、毎年WHOの活動評価を行っています。今年は、12月11-12日の2日間、インド、デリーのWHO南東アジア地域事務所で委員会を開催しました。WHOの6つの地域事務局のうち、ヨーロッパを除く5地域のハンセン病担当官と世界全体を統括するチームリーダーが出席し、現状と問題点、次年度の計画に関する議論に加え、今年は、過去10年間新患数に変化が無いという停滞を突破するための新しい対策手法に関する研究開発状況などを含む、中長期的対策活動に関する突っ込んだ議論がなされました。

民族衣装サリーを着た南東アジア地域事務局長、「RDマダム」(中央)の挨拶民族衣装サリーを着たシン南東アジア地域事務局長(中央)の挨拶

長く、医療的な側面のみ捉えられてきたハンセン病問題ですが、その根源的な解決には、患者数を減らすだけではなく、偏見と差別の問題に取り組む必要があります。ハンセン病にかかったから、そしてハンセン病にかかった家族がいるから、何千万、何億という人々が偏見と差別の対象となってきました。差別のために社会生活が送れず、早期に診断を受けることができず、治療を完了することができないという現状を変えるためには、今後一層の努力が必要です。ハンセン病の問題は、社会と病気、病気と人生についての普遍的、かつ根源的な問いを投げかけてくれています。

南東アジア地域事務所入口。近年デリーの大気汚染はすさまじく、予防マスク姿の参加者もちらほら。

南東アジア地域事務所入口。近年デリーの大気汚染はすさまじく、予防マスク姿の参加者もちらほら

 

二日間の会議中、お昼やコーヒータイムには事務局内の食堂で一息。豆カレーやサモサ、スイーツが美味でした。写真は世界一甘いと言われる「歯が溶けそう」なスイーツ、グラブジャムーン

二日間の会議中、お昼やコーヒータイムには事務局内の食堂で一息。豆カレーやサモサ、スイーツが美味。写真は世界一甘いと言われる「歯が溶けそう」なスイーツ、グラブジャムーン

[活動レポート ― ハンセン病]
ハンセン病対策の新たな取り組み

5月30 ~ 31日、インド・デリーの世界保健機関南東アジア地域事務所(WHO SEARO)で、ハンセン病の診断、治療、予防に関する専門家グループ会議が開催されました。

WHO SEAROにて

WHO SEAROにて


会議の目的は、新しい診断、治療、予防法の研究結果を検証し、日常業務の中で使用可能な方法として推奨すべきか否かの判断をする、というものです。専門家グループには、
細菌学者、疫学者、医療経済学者、国のハンセン病対策担当官などに加え、ハンセン病の回復者も専門家として含まれていました。
WHO 発表の最新の統計(2015年)によれば、同年の世界の年間新患数は210,758人です。10 年前の2005 年には286,063人でしたので、この間に約4%の穏やかな減少を示してはいますが、2000 年前後の急速な減少と比べると停滞感は否めません。現在の対策活動が維持され4%の減少が続く場合、今後革新的な対策方法を導入せずとも、約140 年後には患者はゼロになると言われています。しかし、ハンセン病に対する関心はさらに薄れ、それに伴い予算規模、経験を積んだ専門家も減っていくと予想されるので、4%の減少率を維持することは困難と思われます。今回の会議ではこうした現状を鑑み、4つのテーマが検討されました。
一つ目は、誰でも正確に診断できるELISA(抗原/抗体反応を利用した検査方法)やPCR 法(DNAによる検査方法)を利用した診断法です。
現在、ハンセン病の診断は初期症状である斑紋により行っており、技術と経験が求められます。より簡便で正確な診断法は、制圧に大きく貢献すると期待されます。
二つ目は、菌の多少によらない共通の治療法です。ハンセン病の治療は多剤併用療法(MDT)と呼ばれ、3 種の抗生剤を内服しますが、少菌性と多菌性では、抗生剤の配合と服用期間(6 ~ 12か月)が異なります。共通の治療法(U-MDT)では、同一配合MDTを6か月服用します。菌の多少の区別をする必要が無いので診断を容易にし、服用期間が短くなることで患者の負担軽減が期待されます。
三つ目は、らい菌の感染や感染しても症状発現を防ぐ予防法です。抗生剤リファンピシンの内服やBCG接種による効果が研究されており、今回の会議でも検討されました。
予防法が実現すれば、制圧への貢献は言うまでもありません。
四つ目は、将来避けては通れない薬剤耐性菌出現への対策です。現在のところ、MDT治療への耐性菌の問題は極めて小さいとのことですが、WHOでは耐性菌調査専門家グループを編成し、注意深く観察を続けています。
いずれのテーマも、制圧への貢献が期待されるものでしたが、回復者からは、研究中の予防法が偏見・差別につながる可能性や短い治療期間による治療の確実性への危惧が指摘され、十分なエビデンスを提出するようにとのコメントがされました。今回の検討結果は今年中には公表されるとのことです。

[活動レポート ― ハンセン病]
ハンセン病のリス?

ハンセン病を起こすらい菌は、人だけに感染するわけではありません。
野生動物では、アメリカ南部に生息するココノオビアルマジロが、発病はしないけれど、らい菌を保持することは古くから分かっています。2016 年には、英イングランドとスコットランド、アイルランドで病気の赤毛リスを調べているうちに、らい菌を持つものが見つかり、同時にハンセン病の症状が確認されました。リスから人へは感染の心配はないとされています。

ハンセン病に罹っているかもしれないアカリス。 耳に軽度の脱毛がみられます

ハンセン病に罹っているかもしれないアカリス。
耳に軽度の脱毛がみられます

[活動レポート ― ハンセン病]
ハンセン病 いまなお残る課題

人類最古の感染症の一つと言われるハンセン病。身体的な障がいを残すことから、古くから極めて厳しい偏見と差別の対象となってきました。いまだ解明されない点が多く残るハンセン病ですが、この70 年間で、ハンセン病を取り巻く世界は、劇的に変化しました。
治る病気への道のり
身体に障がいを残す不治の病として、長く世界各地で恐れられてきたハンセン病が大きく変わったのは、1940 年代に治る病気となってからです。しかし1960 年代には、当時の治療薬の耐性菌が各地で報告されるようになりました。これに対応して1980年代初頭に開発されたのが、現在でも最も有効な治療法として使われる、多剤併用療法(MDT)です。早期に治療を始めれば、障がいを防ぐこともできます。この治療を世界各地で必要としている人に効率的に届けるためには、各国の保健省がこれを導入する必要があります。保健省と関係者が一丸となって、ハンセン病が問題とならない世界を目指すために、1991年の世界保健機関(WHO)総会において、2000 年までに世界レベルで公衆衛生上の問題としてのハンセン病を制圧する(人口1万人当たり患者数1人未満)という目標が採択されました。各国保健省やハンセン病対策に取り組んできた国際NGO は、この明確な制圧目標に向かい、活動を一気に加速させました。しかし治療薬を購入するには、莫大な予算が必要となります。笹川記念保健協力財団を始めとする国際NGOは、ハンセン病が問題となっている国に対し積極的に薬剤供与を行い、大きな成果を挙げました。なかでもハンセン病制圧への強力な後押しとなったのは、日本財団による1995 年から5 年間の、WHOを通した世界の全患者に対する治療薬(MDT)無料配布でした。治療薬の開発、世界の関係者が共有する目標、そして治療薬の無料配布という後押しを得て、1980 年代には500万人以上の登録患者がいましたが(登録されていなかった患者が多く、実際には1,000万人以上がハンセン病に罹患していたと専門家は推測しています)、現在では20万人弱にまで減りました。
MDT
現在の課題
この目覚ましい成果にもかかわらず、ハンセン病対策に影がさしはじめています。世界の年間の新規診断患者数は、過去10 年にわたり、20 ~25万人から減少が見られないのです。患者数の減少の停滞にはいくつかの原因が考えられます。第1に、患者の減少に伴いハンセン病に対する社会の関心や政府の対策活動への予算が減り、早期診断・治療などの活動そのものが停滞してきたことです。第2に、ハンセン病に対する根強い偏見や差別のため、ハンセン病と疑われても診断を受けに病院へ行かない、治療を途中で止めてしまうなどの問題が生み出されていることです。第3は、初期症状である知覚のない斑紋が現れないとハンセン病と診断できないことです。感染から発症まで、長い場合20 ~ 30 年もかかりますが、この間の無症状の感染状態を診断する方法はなく、発症前から治療を開始することができません。また、感染を予防するワクチンもありません。しかし、ハンセン病対策に関わる団体や研究者は、こうした状況に甘んじているわけではなく、現在、症状の発現を防ぐ予防内服、服用が楽な短い治療期間のMDTの開発が進められ、近いうちに使用できるようになると期待されています。また、ワクチンの開発も、インドやアメリカで進められています。
笹川記念保健協力財団とハンセン病対策
笹川記念保健協力財団は、世界からハンセン病の問題をなくすために、1974 年に設立されました。設立当初は、ハンセン病を治すことに力を注ぎ、治療薬の開発と配布、必要機材の供与、人材育成を集中的に行いました。世界のハンセン病関係者が疾病としての対策に集中していた中、当財団は、ハンセン病は医療面だけでなく、社会面の問題の解決も図らなければハンセン病問題の解決は見られないことを訴え、1990年代半ば以降は、回復者の社会経済的自立支援をはじめ、回復者団体の強化にも大きく力を入れてきました。患者数の減少に伴い、ハンセン病は「過去の病」としてみなされるようになってきました。ハンセン病問題の最終解決にはまだ長い道のりが残されていますが、世界各国ではハンセン病サービスが急速に縮小されています。
ハンセン病問題がない世界をめざし、当財団では、現在、①的確な診断と治療、フォローアップ、障がい予防と障がい悪化予防など、必要不可欠なハンセン病サービスの維持とその質の確保、②ハンセン病の歴史の現在、未来の世代への語り継ぎと啓発、③ハンセン病患者・回復者・その家族の社会的・経済的自立支援を大きな柱として、世界各国の当事者団体、ハンセン病団体、各国政府などと協力しながら活動を行っています。
ハンセン病の問題は、患者・回復者やその家族だけの問題ではありません。彼らとともに暮らしていく社会の一人一人の問題です。私たちは、この問題を解決してゆくために、彼らとともに歩み、ともに活動してゆきます。

[活動レポート ― ハンセン病]
活動レポート

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 ハンセン病
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